2024年11月6日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年3月15日

 2月25日、インド軍とパキスタン軍は、両国が領有権を争うカシミール地方における停戦順守に合意したとの共同声明を発表した。

Leestat / angkritth / iStock / Getty Images Plus

 インドとパキスタンの間ではこれまで紛争が絶えなかった。紛争はカシミールをめぐるものだけではない。戦争の淵まで行ったと言われる2001~2年の紛争は、2001年12月パキスタンのテロ組織、ジェイシュ=エ=ムハンマドのインド議会に対する攻撃がきっかけであった。また2008年の紛争はパキスタンの別のテロ組織によるムンバイでの大規模なテロ攻撃を契機としたものであった。

 しかし、やはりカシミールが両国の紛争の基本的要因である。そもそも第一次印パ戦争はカシミールの領有をめぐって起きたものであった。1994年の紛争はパキスタン軍がカーギル地方でカシミールの「停戦ライン」に軍事侵入したことを契機として起きている。2019年インドがジャム・カシミールの特別な地位を取り消し、直轄領にしたことにパキスタンが反発し、休戦合意の違反が頻発するようになった。この2年ほど一連の血生臭い衝突が国境で起きている。

 印パの紛争はいろいろな側面を持っている。一つは米国の介入で紛争が回避された例があることである。一つ目は1999年4月パキスタン軍がカーギル地方で「停戦ライン」を超えてインド領に軍事侵入した時で、二つ目の例は2008年パキスタンのテロ組織がムンバイで大規模なテロ攻撃をした時である。いずれの場合も、印パの軍事衝突が懸念されたが米国の説得で平和的に解決されている。もう一つの興味深い例は、2019年2月インドの支配するカシミールのプルワマという町の近くで自爆攻撃があった時である。一時はインド空軍がパキスタン領内のテロリスト訓練キャンプを軍事攻撃し、パキスタンがこれに反撃したが、危機はそのうち立ち消えになったとようである。正確に言えば、立ち消えしてしまうような危機は「本当の危機」ではないのかもしれない。

 休戦は、印パ両国の利益になる。インドについては昨年の中国との一連の衝突以来、中国との国境紛争を抱えており、その上パキスタンとの緊張を拡大することは避けたいところであろう。ちなみにインドは1962年中国とヒマラヤ山系南部の領有権をめぐって軍事衝突し、中印国境紛争を経てカシミール東部の一地区を中国に支配され今日に至っている苦い経験をしている。他方、パキスタンはトランプ政権にアフガニスタン和平をめぐり厳しく批判された経緯があり、バイデン政権に対してパキスタンが地域で責任のあるパートナーであることを示す必要がある。したがって、印パ両国とも紛争は避けたいところである。

 とはいえ、今後印パ間で平和の見込みは高くないと思われる。パキスタンが国内のテロ組織を完全に抑え込むのは困難と思われる。一方でインドはカシミールの司令官に与えた自由裁量を撤回するのは容易でなく、地方の司令官への行動の自制の要請は難しいのではないか。印パはともに休戦を望みつつも、今後とも、両国の全面対決には至らないような小競り合いを繰り返すことになるのだろう。

  
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