世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年12月15日

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 インドのウッタルプラデシュ州は11月24日、婚姻による改宗を最長10年の禁固刑とする「聖戦の愛」指令を承認した。同指令は、女性が改宗して結婚することも禁止する。モディの与党BJPが支配するもう一つの州、マディヤプラデシュ州では、宗教の異なるカップルの結婚を認めた僧を5年の禁固刑に付すこととした。

Nerthuz / iStock / Getty Images Plus

 「聖戦の愛」というのは見慣れない言葉だが、ヒンドゥー愛国主義者に言わせれば、イスラム教徒の若者がヒンドゥー教徒の女性に求婚し、イスラム教徒に改宗させる企てのことらしい。これはヒンドゥー愛国主義者によるデマの一種で、「聖戦の愛」なるものが存在するという陰謀説がきっかけで大虐殺や集団レイプが起こっており、被害者の大半がイスラム教徒であったとのことである。大虐殺を行ったのはヒンドゥー至上主義者であったと報じられている。

 インドは本来、世俗主義の国である。独立の際に目指したのは非宗教国家であり、憲法にも1976年の改正で「世俗」という言葉が付け加えられ、「インドは社会主義の世俗的民主共和国である」と定められている。

 そのインドで最近、世俗主義に反するヒンドゥー至上主義の動きが続いている。2019年5月23日のインドの総選挙では、モディ自身は選挙期間中に反イスラムを掲げることは注意深く避けたが、モディのインド人民党(BJP)はヒンドゥー至上主義を掲げ圧勝した。

 2019年12月には市民権法の改正が議会で可決された。これはインドの隣国のパキスタン、バングラデッシュ、アフガニスタンから2014年までに不法入国した難民(数百万人といわれる)に市民権を与えるもので、ヒンドゥー教徒、シーク教徒、仏教徒、ジャイナ教徒、ゾロアスター教徒が対象であるが、イスラム教徒には適用されなかった。

 インド政府は本年8月にジャム・カシミール州の自治権をはく奪し、中央政府の直轄領土とした。与党のBJPは総選挙の前に発表したマニフェストでカシミールの特別な地位の廃止を呼び掛けていた。ジャム・カシミール州はイスラム教徒が多数派を占めるインドで唯一の州である。

 これでは、モディ政権はインドの伝統的な世俗主義に反すると言われても仕方がない。問題は、ヒンドゥー至上主義がしばしばイスラム教徒に対する憎悪や暴力を伴うことである。モディ政権に対しては、憎悪を権力に留まる指針として使っているとの厳しい批判がある。そうなるとヒンドゥー至上主義は単なる宗教上の選択の問題にとどまらず、モディ政権の政治のあり方の問題となり、世界も懸念を表明せざるを得なくなる。自由で開かれたインド太平洋構想を掲げる日本としても、そのカギを握る国であるインドにおけるヒンドゥー至上主義の強まり、世俗主義からの逸脱は無視できない。

  
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