2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2020年10月31日

 新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、世界各地では反政府デモが去年のように発生し、一部ではデモ隊と治安当局との間で激しい衝突となり、多数の死傷者が出ている。まず、最近の事例を観ていきたい。

(Bogdan Kurylo/gettyimages)

 インドネシアでは、10月5日に可決された「雇用創出オムニバス法」を巡り、首都ジャカルタをはじめ、その近郊のタンゲラン市やブカシ市、中ジャワ州スマラン市や北スラウェシ州マナド市など各地で抗議デモが続いている。これまでの逮捕者は暴徒化した若者を中心に6000人を超え、SNS上で“参加したらお金がもらえる”と勧誘されて参加した若者も少なくないという。また、暴力行為や器物損壊などもあちこちで発生しており、抗議デモを取材している最中に暴力を振るわれたり、威嚇されたりした報道関係者も50人を超えていると最近警察は明らかにした。

 タイでは7月以降、首都バンコクを中心に各都市で、プラユット首相の退陣や憲法改正、反政府団体・活動家への弾圧停止などを求める学生・民主団体による抗議デモが頻繁に発生している。7月25日から26日にかけては、学生団体がバンコク中心部の複数の箇所で同時多発的な反政府デモを開き、ラーチャダムリ通りから戦勝記念塔までデモ行進した。8月10日に開催された抗議デモでは、デモ隊は国内で議論すること自体がタブーとなる王室の改革を求める声を上げ、それ以降も同様の声を上げる反政府デモが続いている。タイ政府は9月28日、新型コロナウイルスの感染拡大防止策として非常事態宣言をさらに10月末まで延長すると発表したが、市民の間では十分に経済活動を再開できないだけでなく、延長を繰り返すことで政府は反政府デモを抑えようとしているとの不満も高まっている。

 東欧のベラルーシでは、8月9日に大統領選挙が実施され、欧州最後の独裁者と言われるルカシェンコ大統領が勝利したが、それ以降、投票の不正や即時退陣を訴える市民の反政府デモが続いている。首都ミンスクでは10万人を超える大規模デモが毎週末のように続いており、これまでの治安当局との衝突では市民にも犠牲者が出るだけでなく、捕まった市民の一部は刑務所で拷問を受けているともいわれる。

 パキスタンでは10月下旬、国内経済がいっそう悪化するなか、最大の都市カラチでカーン首相の辞任を求める数十万人規模の反政府デモが行われた。反政府デモは、9月に複数の政党が一緒になって結成された最大野党「パキスタン民主運動」が主導し、パキスタン民主運動は来年1月に予定されている決起集会に向けて、今後も各地で反政府デモを続けると主張している。一方、カーン首相は徹底的に抵抗する姿勢を示しており、今後さらに治安が悪化する恐れがある。

 ナイジェリアでは、警察の特殊部隊「対強盗特殊部隊(SARS)」による人権侵害に抗議するデモが続いている。最大の都市ラゴスでは10月20日、SARSへの抗議デモの参加者に対し、兵士が発砲して複数が死傷し、同月12日にもデモ隊と警官隊が衝突し、警察官1人と男性1人が犠牲となった。首都アブジャや南西部オヨ州などでも、警察が抗議者らに催涙ガスや放水銃、実弾を使用する場面も見られ、米国のクリントン元国務長官がブハリ大統領と軍に対して、「#EndSARS(SARSに対する抗議デモ)」の参加者を殺害しないようネット上で呼び掛けるなど国際社会から非難の声も強まっている。

 一方、去年以降反政府デモが続く香港では、現在治安が落ち着いているという。香港警察のトップは10月1日、6月の国家安全維持法の施行以降、香港警察による法執行・摘発、新型コロナウイルスの防止対策なども影響し、治安が改善していると発表した。昨年の逃亡犯条例改正案の撤回を求める抗議デモが激化して以降、香港では大規模なデモが繰り返し行われ、デモ隊と警官隊との衝突で多くの逮捕者と死傷者が出たが、今年も国家安全維持法に反対する抗議デモはあったものの、去年とは比較にならない小規模なものとなった。

 以上、インドネシアやタイ、ベラルーシやパキスタン、ナイジェリア、香港の反政府デモの情勢を簡単に観てきたが、当然ながら、これらの抗議デモの相手は各国政府であり、それぞれは別々の国内問題である。テレビや新聞で報道されるのも、それぞれの現状や行方など国内的側面のみだ。


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