2024年4月26日(金)

WEDGE REPORT

2020年10月31日

若者たちの国境を越えた繋がり

 しかし、こういった反政府デモからは別の側面も見え隠れする。それは、“政府への不満・怒りを持つ若者たちの国境を越えた繋がり”である。それを可能にしているのはSNSの急速な発達と普及であるが、今年のケースからもそれを発見することができる。

連帯するベラルーシと香港の若者

 例えば、香港では外に出ての抗議活動など“オフライン”での活動が激減しているが、一部のデモ参加者は欧米や日本に協力を呼び掛けるだけでなく、同じように国家権力に挑戦するベラルーシやタイのデモ参加者へエールを送るなど“オンライン”での活動を増やしている。国家安全維持法によってオンラインでの活動も難しくなってきているとみられるが、香港デモの参加者は、「transnational solidarity(国境を越えた団結)」を生み出すため、両国のデモ参加者へオンラインで接近を図っている。

 これに対し、ベラルーシやタイのデモ参加者もSNS上で香港のデモ参加者に答えるなどして関係を構築するだけでなく、タイのデモでは一部の参加者が、「香港は国だ、香港に独立を。香港は我々に多くの支援をした、我々はデモにおいて香港モデルをお手本とする」などとスローガンを掲げて歌う姿が目撃され 、ベラルーシでは「LIBERATE HONG KONG」と書かれた旗を持ってデモ行進する女性の姿があった 。また、香港では民主活動家たちが、香港のセントラルにあるタイ領事館前で「タイの人々を支持する、抗議デモ参加者への暴力を非難する」など抗議する声を上げた 。

香港のデモを支持するタイの市民

 また、長年積もりに積もった大きな不満が、一つのことが起爆剤となり一気に爆発したという点も似ている。そして、以前と違い、インターネットやSNSが世界中で日常的に使用される現在、10代や20代の若者たちは日々世界で何が起こっているかを簡単にチェックし、自分たちと他者を同一視、もしくは比較することができる。去年の香港、イラク、レバノン、チリの4つのデモでは、参加者の中に映画「ジョーカー」のお面を被ったり、主人公ジョーカーのメイクを顔にしたりする若者の姿が共通して目撃された。 去年も世界では、香港やイラク(当時のアブドルマハディ政権の退陣を求める抗議デモ)、レバノン(政府によるSNSアプリ利用の際の課税措置決定に対する抗議デモ)、チリ(政府による地下鉄賃上げ決定に対する抗議デモ)など各地で反政府デモが発生し、警官隊との衝突で多数の死傷者が出た。これらも別々のケースであるが、「安定的な仕事に就けない」、「経済格差が大きい」、「一部の者が利権を握っている」などのような不満・怒りを持ち、これまでの前例主義や権威主義、既得権益を打破しようとする若者たちの懸命な姿は共通している。

 去年の反政府デモでは、一部の若者たちはスマートフォンで動画や画像をSNS上に載せ、同じような不満を抱える外国の同士たちとネットワークを構築しようとする姿があった。例えば、レバノンでは、反政府デモに参加する若者が「イランやイラクの若者たちと一緒になって戦おう」と呼び掛けた。

 今年と去年見られたような国境を超えた若者たちの団結というものは、SNSなどデジタル技術の発達で作り出しやすくなっている。それらが各国政府の存続を脅かすレベルにまで活発になるとは考えにくいが、不満・怒りを持つ若者の国境を越えた繋がり、若者vs既得権益層の国境を越えた世代間戦争という軸は、今後国際社会でより大きな問題になる可能性は排除できないだろう。

  
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