トランプ前大統領は、5月1日にアフガンから米兵を撤退させると約束し、その実現性に疑義が呈せられ、バイデン政権の対応が注目されていた。トランプが設定した5月1日の期限が迫る中、バイデンは4月14日の演説で、「米史上最長の戦争を終える時だ」と述べ、アフガニスタン駐留米軍を9月11日までに撤退させると表明した。この決定は、撤退をアフガンにおける軍事情勢に関わりなく行うというものである。多くのアメリカの軍事指導者は、軍事情勢を見て撤退を決める、いわゆる条件付き撤退を要請していたらしい。しかし、バイデンは撤退を戦況と結びつければ米軍は永久にアフガンに駐留することになると考え、その選択は避けた。
今回のバイデンの決定には、反対論が根強い。米国がアフガンのガニ政権を見捨てることで、タリバンがアフガンの大部分を制圧したり、アフガンが内戦状態に陥るようなことがあれば、アフガンは再びテロの聖域になってしまうではないかという強い懸念である。
しかし、バイデンは、アフガンの運命はつまるところアフガンの国民が決めるものであると考えた、と言う。また、サリバン国家安全保障担当補佐官は、4月18日のFOXニュースの番組で、「米軍撤退後、アフガンで何が起こるか、誰にも保証できない」、「今や米軍は帰還し、アフガンの人々が自国を守る時である」などと突き放した発言をしている。
駐留米軍の後ろ盾無しにアフガン政府がどれだけタリバンを取り込めるか、アルカイダや他のイスラム過激派の活動をどれだけ抑え込めるか、疑問がある。このようなリスクにもかかわらずバイデンがアフガン駐留米軍の撤退を決めたのは、アフガンがバイデン政権にとって優先度が高くないことを示している。
バイデン政権にとって課題は山積している。対外的には何より中国の進出にいかに対抗するかの問題がある。国内的には、Covid-19対策、半導体産業の活性化、5Gへの投資など、経済の活性化が優先的課題である。そのような中でアフガン情勢への関与は優先度が低い。ブリンケン国務長官は4月18日のABCテレビの番組で、「テロの脅威は他の場所に移った。我々には他の重要な課題、すなわち、対中関係、気候変動対策から新型コロナ対策にいたる諸問題があり、我々はエネルギーと資源をそこに集中させなければならない」と述べた。
アメリカはベトナムで苦汁を飲まされた。最近ではイラクへの関与で苦い経験をしている。アフガンへの関与は9.11というアメリカにとってのかつてない経験への反応であったが、その歴史的使命は終わったと言える。上記のバイデン、ブリンケン、サリバンらの発言を見ていると、アフガン情勢がよほど悪化しても、バイデンが再び米軍をアフガンに派遣することは、なかなか想定しづらい。「アフガンの運命はアフガンの国民が決める」というのは、そういうことだろう。
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