カタールの首都ドーハでのアフガン和平交渉では、アフガニスタンにおいてイスラムがどのような役割を果たすべきかという問題が一つの重要な論点である。これは、タリバンが和平交渉でどれだけイスラムの役割を要求するかにかかっている。タリバンは交渉で「イスラム式統治」を要求しているが、タリバンは社会や政治でのイスラムの役割を明らかにする必要がある。
ソ連のアフガニスタンからの撤退後、タリバンはアフガンの政権を奪取し、一切の欧米文明を否定し、テレビ、ラジオ、映画を禁止し、女性に就職や教育の機会を与えないなど、イスラム原理主義に基づく一種の恐怖政治を実施した。しかし、タリバンの支配は2001年9月11日の米国での同時多発テロ後の米軍によるアフガン軍事介入で終わりを遂げた。
国際的NGOインターナショナル・クライシス・グループのアフガニスタン問題上級コンサルタント、ボーハン・オスマンは、10月2日付けニューヨーク・タイムズ紙掲載の論説 ‘Whose Islam? The New Battle for Afghanistan’ で、タリバンはかつての強圧的支配を反省したようであり、今回の和平交渉でも「イスラム式統治」を要求しているが、アフガン国内の世論に影響され妥協の余地がある、と言っている。
現在のアフガン憲法では、イスラム法が他の法の上位に来ると定められており、アフガン政府当局者はアフガンの制度はすでに十分イスラム的であると言っている。アフガンの交渉で和平を達成するためには、タリバンの考えと政府当局者の考えを調和させる必要がある。新しいイスラムの役割は、憲法を改正し、そこで規定されることとなる。上記の論説は、タリバンがアフガン政府の頂点に、行政府を監視する宗教機関を設置することを考えていると述べているが、具体的なことはまだ分からない。
アフガン政府とタリバンの和平交渉ではアフガン政府に逆風が吹いている。
一つには米国が2月のタリバンとの和平会談で、14か月以内(来年4月ごろ)に米軍を完全撤収することに合意していることである。もしバイデン大統領が実現した場合でも、バイデンは以前から米国のアフガンに対するコミットメントに懐疑的であったので、完全撤収に反対しない可能性がある。ガニ大統領は米国に見放されたと感じているのではないか。
もう一つはタリバンの軍事攻撃が止まないことである。現在タリバンは面積でアフガン全土の5~6割を支配していると見られている。その上アフガンの34州中30州で戦闘を行っていると報じられている。特に1隊15名からなる特殊部隊が20~30あり、パキスタンからの武器の支援を得て戦闘に加わり、タリバンは支配地域を広げていると言われる。
このような状況の下でタリバンは和平交渉を急ぐ必要はなく、「イスラム式統治」についても粘り強く交渉するだろう。アフガン政府とタリバンの和平交渉が始まったこと自体画期的なことで、歓迎すべきであるが、和平交渉がまとまり、アフガンに和平が訪れるシナリオは描きがたい。
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