世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年9月28日

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 9月12日、カタールの首都ドーハでタリバンとアフガニスタン政府代表のアフガン和平交渉が始まった。これまでの長い経緯を考えれば、交渉が始まったこと自体アフガンの和平に向けた大きな前進と言える。

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 元来会談は3月10日に始まる予定であったが、ガニ大統領がタリバンの捕虜の釈放を渋り、反発したタリバンが政府軍への攻勢を強めたため、交渉開始が遅れていたものである。

 タリバンとアフガン政府代表の会談に先立ち、米国とタリバンが2月にドーハで会談し和平合意を達成している。そこでアフガン政府がタリバンの捕虜5,000人を、タリバンがアフガン政府軍の捕虜1,000人を釈放することが合意された。

 アフガン政府抜きで交渉が行われたことはアフガン政府にとっては屈辱的なことであったろうが、アフガンでの現状を反映したものであった。ガニ大統領はタリバンの5,000人の捕虜、特にそのうちの400人の重罪捕虜の釈放を渋った。おそらく米国のハリルザド特使の説得があったのであろうが、ガニ大統領は400人の重罪捕虜の釈放については、国民大会議(ロヤ・ジルガ)の判断を仰ぐとの決定をし、国民大会議が9月10日にようやく釈放の決定をしたものである。

 今回のアフガン和平交渉を推進したのはトランプ大統領であった。トランプは2016年の大統領選挙でシリア、イラクに加えてアフガニスタンからの米軍撤兵を公約に掲げ、そのためアフガンでの和平交渉を推進しようとした。

 トランプはまず駐アフガン米兵を12,000人から8,600人に削減し、ついで11月までに4,500人まで削減することを決定した。2月のタリバンとの和平会談で、タリバンがアフガン国土をテロ攻撃に使わないという約束をすれば、米軍とNATO加盟国の軍を14か月以内に(来年4月ごろ)完全撤収することに合意した。

 これは二つのことを意味する。一つはトランプの当初の希望にもかかわらず、大統領選挙までの完全撤退はないということである。トランプも現実を認めたことになる。

 第二は、タリバンが約束を守れば米軍が完全撤退することである。米国政府の中には、アフガンの治安部隊の訓練のため4,000人前後の米兵は残すべきであるという見解があったが、その見解は採用されなかったことになる。米国はもしタリバンが約束を破ったら完全撤退はすべきでない、という意見もあるが、タリバンから見れば、約束を守れば14か月以内に米軍とNATO軍が完全撤退することが合意されているので、来年4月ごろまで約束を守るようにするのではないだろうか。

 もしバイデン大統領が実現したらどうなるか。バイデンは以前からアルカイダの復活を阻止するために小規模なテロ対策部隊は残すべきであるとの見解を持っていたことで知られている。バイデンは以前から米国のアフガンに対するコミットメントには懐疑的であったので、仮に完全撤退となっても反対はしないのではないかと思われる。その背景は米国世論のアフガン疲れである。9.11直後は、アルカイダ撲滅のためアフガンへの軍事攻撃を全面支持したが、その後アフガンの米国にとっての重要性が急速に薄れたこともあり、米国世論は米軍の全面撤退を支持するだろう。

 タリバンとアフガン政府の交渉は当然のことながら難航することが予想される。アフガン政府は統治の形態をめぐって、たとえば民主的選挙と女性の権利を定めた憲法を受け入れなければならないと主張し、タリバンは難色を示すだろう。合意の成立が容易でないことは周知の事実である。しかし、交渉が始まったこと自体画期的で、軍事的解決の選択肢がない以上、何とか妥協点を見出すための努力が行われ、米国や関係国も支援の手を指し伸ばすこととなるだろう。

  
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