バイデン米大統領がアフガニスタン駐留米軍を米中枢同時テロから20年となる9月11日(9・11)までに完全撤退させると決断した。軍部の反対を押し切っての「無条件撤退」で、内戦が激化するなど戦況にかかわらず撤退を断行する。ある意味、撤退への道筋をつけたトランプ前大統領よりも過激な決定だ。政治的な賭けに出たバイデン氏の思惑と今後のシナリオを探った。
政府崩壊でも見直さず
ニューヨーク・マンハッタンにあった世界貿易センターの双子の高層ビルに2機の旅客機が突っ込んだ9・11。実行した国際テロ組織アルカイダへの報復として、米国がアフガニスタン戦争を仕掛けてから20年。「史上最長の戦争」から抜けられないまま、泥沼にはまってきた。これまで2200人の米兵が犠牲になり、戦費は2兆ドル(200兆円)もつぎ込んだが、和平を達成することはできなかった。
この「終わりなき戦争」に終止符を打つ道筋を付けたのはトランプ氏だった。「米第一主義」を掲げたトランプ氏は昨年2月、アフガニスタンの反政府勢力タリバンと和平合意し、今年5月1日までに完全撤退することを約束した。一時、10万人を超えていた米駐留軍は段階的に削減され、現在は2500人にまで減少している。
だが、合意ではタリバンとアフガニスタン政府軍との内戦が激化し、政情が悪化しても撤退を実施するかどうかはあいまいな部分が残されていた。しかし、バイデン大統領は4月14日の発表で、撤退期限を9月まで先送りしたものの、「同国を再び、米本土へのテロ攻撃の拠点にさせないという目的は達成された」として、戦況にかかわらず完全撤退させることを決定した。
大統領は「撤退の条件を設定するとして、どんな人的、予算措置をすれば、条件が整うのか、適切な回答がなかった。なければ、留まるべきではない」と述べ、内戦が激化し、たとえアフガン政府がタリバンの攻勢により崩壊するような最悪の情勢になっても撤退の方針を変えない決意を明らかにした。
バイデン大統領はオバマ政権の副大統領当時の2009年、オバマ大統領の増派に異議を唱え、対テロ部隊など小規模の駐留軍を残して撤退すべきだとの主張を展開し、退けられた過去がある。米メディアによると、大統領は軍事的に勝利できないという確信を深め、「戦況次第で撤退計画を見直す」などの条件付きのアプローチでは、永遠に駐留し続けなければならなくなるとの考えに傾斜していた。
その背景には、「米国がアフガンなどの紛争に足を取られているスキをついて、“最大の競合国”の中国が世界各地に影響力を拡大している」との懸念がある。大統領は早急にアフガン紛争のくびきを外し、中国への対抗やコロナパンデミック対応、気候変動、国内の大規模インフラ投資などの喫緊の戦略的な課題に取り組む必要がある、と思い極めていたようだ。
とりわけ、自由や人権といった理念を重視する大統領の頭には「民主主義体制」対「専制主義体制」の競争という構図が描かれており、外交では中国の勢力拡大など対中政策が最優先課題。菅義偉首相との16日の日米首脳会談後の共同声明で、「台湾海峡の平和と安定」という文言を入れたのも、そうした考えに基づいている。