2024年12月12日(木)

中東を読み解く

2021年3月23日

 2年間で4回目となるイスラエル総選挙が3月23日実施される。刑事被告人として窮地に立つネタニヤフ首相は世界最速で新型コロナウイルスのワクチン接種を進め、その実績を訴えて勝利を目論む。だが、首相率いる右派「リクード」連合が単独で過半数を制するのは無理な情勢で、困難な連立工作が待っている。早くも5度目の総選挙を予想する声も出ている。

(Inna Reznik/gettyimages)

ユダヤ人脈を利用しファイザー取り込む

 イスラエルの政治が安定しない理由は簡単だ。選挙を繰り返しても過半数を取れる政党がなく、綱渡りの党派工作によりやっと連立政権の樹立にこぎ着けてきたからだ。だが、ネタニヤフ首相は2009年の政権発足以来、幾度も政治的な困難を乗り越え、粘り腰で政権を維持してきた。

 1年前に実施された3度目の選挙の後、第1党のリクードと第2党の野党、「青と白」が「国のため挙国一致でコロナ対応を」というネタニヤフ氏の説得で大連立を組んだ。ネタニヤフ氏と「青と白」の指導者ガンツ氏が「1年半の輪番制で首相を務める」との合意だったが、大方の予想通り、昨年12月に両者の対立が決定的となり、連立政権が崩壊し、今回の選挙となった。

 今年初めから汚職容疑などで刑事裁判が始まるのを控え、ネタニヤフ首相は絶体絶命の立場に追い込まれたと見られたが、コロナ対策を利用して危機からの脱却を図った。首相は米ファイザー製薬のアルバート・ブーラ最高経営責任者(CEO)に急接近、ワクチンの優先的な提供を受けることに成功した。

 その結果、現在、イスラエル国民900万人の半数が2回目のワクチン接種を完了しており、世界最速で接種が進み、感染者も激減しつつある。首相がワクチン獲得に成功した背景には、ボーラ会長がホロコストの生き残りの息子というユダヤ人つながりが大きかったようだ。

 エルサレム・ポストなどがボーラ会長の発言として伝えるところによると、ネタニヤフ首相は30回も会長に直接電話して、ワクチン提供を懇願した。イスラエル時間の「午前3時」に電話をしたこともあったという。ファイザーにとってもワクチンの効用を試すには大規模な接種が必要で、「イスラエルが世界の実験場になった」(会長)。ベイルート筋は「ボーラ会長が首相に取り込まれた」と評している。

 ネタニヤフ首相は前回の選挙では、トランプ前大統領との親密な関係をアピールして選挙の“ウリ”にしたが、トランプ氏の後継のバイデン大統領とは冷ややかな関係で、頼ることはできない。このため首相はボーラ会長との個人的な関係を誇示し、世界に先駆けてワクチンを獲得した手腕を訴える作戦に賭けた格好だ。

 首相のこのワクチン活用戦略は徹底していた。第一便のワクチン到着を空港で出迎え、大々的に自らの接種を宣伝、何度も接種会場を訪問した。すべてテレビで取り上げられるよう演出した。ワクチン接種者にはグリーン・パスポートを発行して観劇やプール利用などを許可。選挙直前になって、1日3000人に制限してきたテルアビブ国際空港での規制を撤廃、閉鎖となってきたバーやクラブもオープンすることを発表した。


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