存在感高めるパキスタン
アルカイダやイスラム国(IS)といったテロ組織が再び米本土をテロ攻撃できるほど台頭するかについては、短期的に否定的な分析が一般的だ。米軍のテロとの戦いの中で、アフガンのアルカイダやISは弱体化、米本土にテロを仕掛ける余力は残っていない。ただ、タリバンはトランプ前政権との和平合意で、同国をテロ組織の聖域にしないと約束をした形になっているものの、バイデン政権は信用していないだろう。
中長期的に見れば、米軍が撤退すれば、イスラム過激派の掃討作戦は著しく後退し、情報収集もこれまでのようには運ばない。かと言って、アフガン国内を空爆すれば、タリバンとの関係が悪化し、かえって反米感情を煽り、過激派と手を組ませることになりかねない。過激派が育つ余地があるということだ。
そこで駐留軍なきあとの米国にとって重要になってくるのがアフガンの隣国にして核保有国のパキスタンの存在だ。ニューヨーク・タイムズは米軍の撤退が「パキスタンの勝利」と報じている。パキスタンの情報機関ISIがマドラサ(イスラム原理主義学校)の敬虔なイスラム教徒の若者らを支援し、タリバンを創設したことはよく知られている事実だ。
ISIはタリバンを使ってアフガン情勢を自国の安全保障に有利になるように操り、タリバン指導者らを国内に“保護”し、米国も見ないふりをしてきた。カタール・ドーハで開かれてきた政府との和平協議に出席するタリバン代表団はパキスタンから出国し、協議のためパキスタンに戻った。パキスタンは水面下でタリバンに影響力を行使してきたのである。
米軍が撤退し、タリバンがより勢力を拡大するようになれば、パキスタンにとっては好ましい展開だ。目の上のコブ的な米国のプレゼンスが消え、アフガンの政治に介入しやすくなるからだ。米国もアフガンの過激派対策や情報をパキスタンにより依存するようになるだろう。パキスタンは米国にも恩を売ることができ、軍事援助を引き出しやすくなる。米軍撤退後のアフガン情勢のカギはパキスタンだ。
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