2024年12月23日(月)

日本再生の国際交渉術

2012年11月1日

 日本の通商戦略は、TPP(環太平洋経済連携協定)、日EUEPA(経済連携協定)、日中韓EPAの三つの自由貿易協定(FTA)について今年中に交渉開始を宣言できるかどうかに大きくかかっている。小生はこの三つを「通商3点セット」と呼んでいるが、それらを戦略的に進めていく上で、TPPの優先度がやはり高い。そのことは2011年11月に野田総理が「交渉へ向けた協議開始」に舵を切ったことで、EUも日EUEPAにより前向きになってきたことや、中国が今年の5月に日中韓EPAの年内交渉開始に合意したことからも分かる。

 また、中国が従来はあまり関心を示さなかった「ASEAN+6」(中国が主張する「ASEAN+3(日中韓)」にインド、豪州、ニュージーランドを加えた枠組みで2006年に日本が提唱)についても、今年8月末のASEANとの会議で東アジアにおける経済統合の枠組みとしてRCEP(Regional Comprehensive Economic Partnership, 東アジア包括的経済連携)を中核に据えることに合意し、実質的に日本が提唱してきた「ASEAN+6」を追認する構えを見せたことも野田総理のTPPへの前向き姿勢が中国の背中を押したとの見方ができる。

日本の参加でTPPを
世界貿易秩序の新たなルール・セッターに

 では、何故TPPはそこまで重要なのか?APEC域内のGDPは世界の約5割に達するが、そのAPECの中で日本のGDPが占める比率は約15%。その日本がTPPに参加すると、APECに占めるTPP参加国のGDP比率は69%、実に7割近くまで上昇する。因みにアメリカのGDPはAPEC全体の39%である。

 このように、日本の参加はAPEC域内でTPPの重要性を決定づけることを意味しており、いわゆる「クリティカル・マス」(全体の趨勢を決定づけるような多数派)を形成することになる。そのことは引いてはTPPが日本の参加によって世界貿易秩序の新たなルール・セッターになることを意味する。この点はとりもなおさず日本のTPP交渉における「セールス・ポイント」であり、日本は自らが持つそのバーゲニング・パワーにもっと注意を向けるべきである。

 しかし、実際はどうか。残念ながら、今年もあと2カ月を残すばかりとなった今日、TPPについて今年中に交渉参加が明言されることは難しくなったのではないか、と危惧する声が聞こえてきている。4月末の日米首脳会談、累次のAPEC関連閣僚会議ならびに9月のAPEC首脳会議、国連総会と交渉参加明言の機会はことごとく見送られてきた。後はアメリカ大統領選挙が終わって、勝利した方に総理がお祝いのメッセージを電話で伝える時が残されているくらいである。


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