2022年7月2日(土)

日本再生の国際交渉術

2012年11月1日

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渡邊頼純 (わたなべ・よりずみ)

関西国際大学国際コミュニケーション学部長・教授

1953年生まれ。上智大学大学院国際関係論専攻で修士号取得、博士課程後期を単位取得満期退学。専門は国際政治経済論、GATT・WTO法、欧州統合論。GATT事務局経済問題担当官、外務省経済局参事官などを経て2019年4月より現職。慶應義塾大学名誉教授。2015年4月より三菱ふそうトラック・バス株式会社監査役。

 これとて今の国内政治状況を考えると難しいかもしれない。「交渉へ向けた協議開始」宣言から1年経ってもTPP交渉に踏み出せないことで、日EUEPAについても、日中韓EPAについても、「(貿易自由化について)日本は本気なのか?」という疑問が再び漂い始めた。国内政治の混迷のせいで、今の日本の通商政策は袋小路に入ってしまったかのようだ。

日EUEPAでは一定の進展も

 そのような中でも少しだけ希望の光が見えてきたのが日EUEPAである。

 10月18日~19日にEU(欧州連合)が開催する首脳会議の総括文書の中で「EU内で(日本との交渉開始について)合意を求める」との文言が入った。しかし、これで交渉開始が年内に確実にできるかというと、必ずしもそこまで楽観的にはなれない。そもそも当初の総括文書案にはあった「早期に」という文言が削除されているからである。EU加盟国の中でもドイツ、フランス、イタリアといった主要国をふくめ9カ国が日本とのEPA交渉開始に慎重な姿勢を崩していない。今年の5月末まで約1年をかけた「スコーピング」(scoping exercise)と呼ばれる、EPA交渉の範囲と「野心のレベル」を探るための「予備交渉」を終了したことを閣僚理事会に報告した欧州委員会は、今年の7月以来EU加盟27カ国から対日交渉を行うための「マンデート」(交渉権限)を獲得するために加盟国政府と調整作業を続けてきている。

 EUの国会に相当する欧州議会(European Parliament)も10月10日国際貿易委員会(モレイラ委員長)が日本とのEPA交渉開始に支持する旨賛成23票、反対2票で決議している。欧州議会は2009年のリスボン条約発効以降、通商問題でも権限を強化されてきていることから、その動向が注目されていたが、今回直接関係する国際貿易委員会が交渉開始に「青信号」を出したことで、一つの関門を無事通過したと見ることが出来る。

 この決議に先立って9月19日にはブリュッセルの欧州議会で日EUEPAに関するワークショップが開催され、筆者も賛成側のスピーカーとして意見陳述の機会を与えられた。反対側ないしは慎重派からもドイツ人エコノミストのユルゲン・マテス博士(ケルン経済研究所)が登壇し意見を述べたが、その議論は概ね日本市場の閉鎖性、市場参入の困難さを指摘するものであり、関税はEUよりも低いのにEUの産品が日本市場に入って行かないのは「非関税障壁」のせいであるといった、どちらかと言えば対日輸出における「フォーマルなバリヤー(障壁)」よりも「インフォーマル・バリヤー」に焦点を当てたものであった。

日本市場は「閉鎖的」?

 一般に欧州では日本市場は閉鎖的と見られている。その理由は、日本の工業品関税の平均は2%を切るくらいの低い水準であり、その意味では日本は「オープン・マーケット」であるが、それでも他の地域で売れている欧州産の工業品や医薬品が日本市場に入って行かない。そこで日本は「閉鎖的なオープン・マーケット」と捉えられている。そして欧州側から見た時の日本市場参入の困難さの元凶として何でもかんでも「非関税障壁」として片付けてしまう傾向が見られる。

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