2022年12月3日(土)

Wedge REPORT

2021年7月5日

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「枠」にとらわれないアメリカの起業家

藤田 やはり、各務先生のような起業経験のある実務家の話を学生が聞くことができることは素晴らしいですね。日本の若者世代に対して、経験を伝達していくことが必要です。

 日米の起業で最も違いを感じるのは、米国では「枠」がないということです。日本の場合、路線、コースを決めて、若者たちをそれに乗せて、これに対して援助するというものです。これに対して、アメリカでは基本的に何もありません。まさにホワイトボードです。

 平均値で見ると、日本の教育レベルは、世界有数のトップクラスですし、先端技術もあります。逆にアメリカでは、教育においても大きな格差がありますし、ここに貧富の差、人種問題など様々な問題が付随します。連邦議会がトランプ支持者によって占拠されたり、いわば、ありとあらゆる状況があり無茶苦茶に見えるのですが、ワクチン開発や接種のプログラムは、なぜか世界的に見ても早く進んでいます。この中にヒントがあると思います。

 私は今年、東大元総長で元文部大臣の有馬朗人さんの後任として、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の理事に就任させていただきました。OISTは、日本の既存教育、既存社会を変えていく一つの突破口になるのではないかと感じています。

 大学院のみのOISTは大変ユニークで、学生の8割は外国人です。公用語は英語です。総長も、外部の有識者が加わって議論して決めます。そして、学部専攻がないのです。学生が自らの研究課題について、教授と話をして、カリキュラムを決めていくのです。このような自由度の高い、ある意味で何でもありという高等教育機関は、これまでの日本にはなかったのではないでしょうか。

 つまり、枠組みを自ら作っていくのです。大事なことは「全てはひとつのなぜ、どうしてという質問からはじまる」ということです。質問をできるような環境を作らなければ何もはじまりませんし、疑問に思うこともはじまりません。「ステータスクオ」(現状維持)では駄目なのです。

 各務先生が東大にいながらにして行われているのは、色々な人を巻き込むことで、違う価値観を創造する、つまり既存の見方、考え方を問うきっかけを作るということなのではないかと思います。

高邁なビジョンとマキャベリズムの同居

各務 確かに東大の学生は、一般解を効率的に出すのが得意、つまり学習知は高いと言えます。でも彼らにとってより重要になってくるのは、この学生ごとに違う設問に対する解を求める、すなわち「個別解」にチャレンジするというマインドセットに切り替える必要があります。新入生向けのアントレプレナーシップ教育プログラムの講義では、これからは、「個別解」のゲームをしようと話しています。学生一人ひとりの置かれた立場は違うでしょうし、社会に横たわる課題の中からどの問題可決をしたいのか、自分が当事者としてオーナーシップをもってやりたい社会課題解決は何かということも一人ひとり違いでしょう。自分にとってどんな個別解を追求したいのかということが重要だということを強調します。

 そういう意味で言うと、アメリカは極端なほどに個別解を考えています。だからこそ、一人ひとりエッジが効いています。

 3・11以降、学生の間で、利他の精神が強まっています。ただ、重要なことは理念以上に、具体的に何ができるか、方法論として何をするかが分かっていないと高邁なビジョンだけが空回りしてしまいます。問題解決には、お金もしたたかさも必要です。つまり、高邁なビジョンとマキャベリズムの同居が必要なのです。

 全ての学生がこれを理解してくれるわけではありません。私としては、分かってくれる学生に対して話をしているという面もあります。一般解から個別解へ。体験したことをベースにオーナーシップを持って自分が関われるものを見つけることが大事です。

 東大も変わってきています。先生方も、「我も続け」という感じで企業経営に参画するようになりました。もちろん、嫌がる先生もまだいますが……。

 それ以上に変化しているのは、学生です。東大は日本の大学の中で、最も多くスタートアップを輩出しています。東大関連のスタートアップ企業の数は430を超えています。大企業に入って、身を託すことのほうがよりリスクは高く、ベンチャーであっても最先端の現場に行って状況をよく知ることによって自分が立ち回った方がよりリスクは低いと考えているのではないでしょうか。

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