思わず「すごいボリュームですね」と言うと、料理長(総務人事部・セレクションシェフ)の尾田芳春さんは満足そうに頷いた。
「食欲が湧くような盛りつけにはこだわっています。彩りは大切ですね」
確かに、ソースのかかったピンク色のサーモンとカラフルなミックスベジタブル、こんもりと盛られたコールスローは、模範的なまでにきれいな色合いだ。機械的に盛りつけるのではなく、1食1食ごと丁寧に心を込める。
京王プラザホテルの社食は、2年前に委託から直営に切り替えられた。その際に白羽の矢が立ったのが、ホテル内の宴会調理部門で働いていた尾田さん。「洋食ばかり担当していたから和食や中華はわからなかった」と謙遜するが、その分、それまでと同じメニューでも盛りつけにこだわって差をつけた。
仕入れルートを駆使し一流の食材を提供
実は、取材日のメニューが「サーモンソテーの中華風ソース」だったのには理由がある。尾田さんのちょっとした悩みは、「肉や麺類に比べて魚を使ったメニューが選ばれない」ことなのだ。
1日に提供するメニューは定食、カレー、麺類をそれぞれ1種類ずつ。取材当日は、定食が「サーモンソテーの中華風ソース」、カレーは「ポークカレー」、麺類は「チャーシュー麺」だった。カレーは野菜カレーとポークカレーの2種類だが、麺類はうどん・そば・ラーメン・スパゲッティ、16種類を日替わりで提供する。定食はさらにメニュー数が多く、肉と魚を使ったメニューを交互に出す。ひと月で同じ定食メニューが出る日はほとんどない。12月の献立予定を見せてもらうと、「牛肉すき焼き風」「鶏のポワレ和風ソース クリスマス風」「マトウ鯛の柚子胡椒風味」など、社食とは思えない華やかなメニュー名が並ぶ。
しかし、趣向を凝らし、バラエティに富んだメニューを揃えていることは魅力である一方で、どうしても人気メニューとそうでないメニューができてしまう。若いスタッフたちは特に、魚の定食の日は麺類やカレーを選ぶ傾向がある。
「どうしたら魚のメニューを食べてもらえるかをいつも考えているんです。食べている皆さんは知らないかもしれないけれど、うちで出している食材は肉も魚もとびきり質がいいもの。築地にだって負けないぐらい、いい魚が入る」