高部は、もう1つのポイントとして、「子ども向けなので耳に接する先端部は、できるだけ柔らかくしたかった」という。ドーナツ状にすることで、たわみ性のある柔構造になった。さらに、使ってみると穴には耳アカがひっかかりやすいことが実感できる。10年余り、多種多様な耳かきを商品化してきたノウハウが詰まっている。
素材は光の透過性や、触感の良さ、さらに折れては困るので一定の強度にも配慮し、ポリカーボネートなど複数の樹脂を配合した。また、光を集光部の側面(外周部)からも取り入れるため、わずかだが集光材も配合している。
量産化技術の確立が最大のハードル
形状や素材が決まった後の試作では、早い段階で光をきちんと誘導できることが確認できた。しかし、そこから量産に至るまでが最大のハードルとなり、約2年の開発期間のうち「大半が量産化技術の確立」に費やされた。加工は、溶けた樹脂を金型に圧力をかけて注入する射出成形という一般的な工法だ。しかし、集光部に気泡が生じるなど不良が続いた。
主力の調理器具など、さまざまな樹脂加工品を設計してきた高部は、加工品質を安定させるための「できるだけ製品の肉厚差を少なくするという要諦」は、おさえていた。従って、ロート状から先端部へと大きく肉厚が変化するこの製品は苦労するだろうとの覚悟もあったという。打開策として、設計をゼロから見直してみた。集光部の肉厚を薄くし、構造そのものも大幅に変更してみた。しかし、うまく光を導くことができないうえ、構造が複雑になって加工組立も容易ではなくなった。結局、断念して元のロート形状に戻すこととした。
そこから、国内の製造委託先とともに量産化技術の改良に力を注いだ。高部の工場通いが続き、金型の改良などで不具合を克服していった。成形後にバリなどを取り除く研磨工程も取り入れ、入念に仕上げている。設計変更もあったため、商品化までには3台の高価な金型が廃棄された。「これまで金型を捨てることなんてなかった」と、高部は苦笑交じりで難産を振り返る。
高度成長期に工業高校を卒業して計測器メーカーに就職した高部は、入社2年目から延べ4年間、夜間のデザイン学校に通った。その後は職業訓練校でソフトウェア開発の技術者資格を取得するなど、20代のうちに着々とスキルを蓄えていった努力の人だ。30歳そこそこで、いまの会社の前身となるPOS(販売時点管理)システムの開発会社を友人とともに設立。日本にIT(情報技術)という言葉がなかった時代のIT起業家でもある。