最大の焦点は、武漢ウイルス研究所での機能獲得実験がSARS-CoV-2を生み出したのかどうかである。13年に雲南省で鉱山労働者がSARS肺炎の症状で死亡する事案があり、武漢ウイルス研究所はそこで採取されたコウモリウイルス(RaTG13)がSARS-CoV-2と96.2%類似していると20年1月に発表した。
トランプ政権は、同研究所が16年以降RaTG13を使って集中的に機能獲得実験を行っていた事実を明らかにしたが、同研究所はこれを否定し、保有するウイルスのデータベースも19年9月からオフラインにしたままである。
CNNによれば、バイデン政権はハッキングによってこのデータベースを入手したようだが、今回の調査結果ではその分析結果には触れられておらず、どこまで機能獲得説に信憑性があるのか不明なままである。今後公開される報告書でより詳しい情報が明らかになる可能性はあるが、いずれにせよ中国の協力なしに真相を解明することはできない。
米中対立の中で真相解明にいたるのか
今回の調査結果の公表に当たって、バイデンはパンデミックの起源に関する重要な情報は中国国内にあると指摘し、他国と協力して中国に再調査の受け入れとすべてのデータの共有を要求すると強調した。しかし、中国はワシントン郊外にある米軍の研究所がウイルスの発生源であると根拠のない主張を繰り返しており、再調査に応じる見込みはない。
SARS-CoV-2の発生起源の解明は、次のパンデミックを防ぐためにも重要である。しかし、2003年のSARSについては起源が解明されているが、エボラ出血熱など起源が解明されていない感染症もある。
より重要なのは、感染症対策には国際協力、特に米中の連携が不可欠であるということである。SARS発生時に、米国内では中国に対する批判が高まったが、当時のブッシュ大統領は側近の反対を押し切って、胡錦濤政権の対応を賞賛した。
それが米中の感染症対策での協力につながり、武漢ウイルス研究所は両国の協力の最前線となった。その研究所が新型コロナの発生源として米中対立を深める結果になったのは、最大の皮肉であり、仮に発生源であることが判明すれば最大の悲劇である。
米国内でも軋轢が起きる調査の進展
中国による情報の開示が期待できない中、次に考えられるのは米連邦議会による調査委員会の立ち上げである。議会共和党を中心に独立委員会の立ち上げを求める声が強まっており、9・11同時多発テロに関する調査委員会を率いたフィリップ・ゼリコウは所属するヴァージニア大学で調査を引き受ける用意があると表明している。
しかし、議会による調査委員会の立ち上げは、米国内政治の影響を強く受けることになるであろう。武漢ウイルス研究所には、米国立衛生研究所(NIH)から、非営利団体エコヘルス・アライアンスを通じて資金提供が行われており、米国民の税金で武漢ウイルス研究所が危険な機能獲得実験を行っていた可能性が指摘されている。
とりわけ、議会共和党は、NIH傘下のアレルギー感染症研究所のファウチ所長が、エコヘルス・アライアンスのダシャック理事長と共謀して、武漢ウイルス研究所にコウモリウイルスの危険な機能獲得研究を委託した事実を隠蔽しようとしていると批判を強めている。議会民主党は、コロナの発生起源をめぐる問題が政治利用されることを警戒しているため、調査委員会の立ち上げに慎重な姿勢を崩していない。
中国の隠蔽体質、深まる米中対立、そして米国内政治が、新型コロナウイルスの発生起源の解明を遠ざけている。しかし、次のパンデミックを防ぐために行うべきことはある。
SARS-CoV-2の発生起源が何であれ、野生動物の売買は禁止されるべきであるし、危険なウイルスの機能獲得に関する規制も強化されるべきである。加えて、国際的な監視体制や情報共有制度、ワクチンや治療薬の開発と配布の枠組みもさらに効果的かつ効率的なものにしていく必要がある。
バイデン政権による調査に区切りがついたことを機に、これら喫緊の課題により力を入れるべきである。