2022年11月29日(火)

日本再生の国際交渉術

2012年12月12日

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渡邊頼純 (わたなべ・よりずみ)

関西国際大学国際コミュニケーション学部長・教授

1953年生まれ。上智大学大学院国際関係論専攻で博士後期課程を単位取得満期退学。GATT事務局経済問題担当官、外務省経済局参事官などを経て2019年より現職。慶應義塾大学名誉教授。専門は国際政治経済論、GATT・WTO法、欧州統合論。近著に『詳解 経済連携協定』(日本経済評論社、監修)。

TPPは交渉中の自由貿易協定(FTA)である

 FTAとは特定の構成国のあいだで関税や非関税障壁などの貿易を制限しているバリヤーを取り除き、モノやサービス、投資や人の移動をスムースにしようとする国家間の契約であり、合意(agreement)である。この合意は政府間の交渉を経て成立し、国際条約の形をとるので日本においては国会の批准手続きを必要としている。(日本国憲法第73条)

 このことは二つの重要な意味を持っている。一つは、先ず「交渉」が行われるということである。この交渉は外交交渉であり、各国の政府の代表がそれぞれ「国益」を背中に背負って交渉に当たる。場合によって、交渉が頓挫したり、中断したりすることもある。もう一つは、交渉結果は必ず民主主義的なコントロールのもとにおかれ「批准手続き」という形で吟味されるということである。

 筆者が首席交渉官として携わった日メキシコEPA(経済連携協定)交渉では実質合意までに23カ月かかり、その後条文のチェックや署名、国会での批准手続きでさらに約1年を要している。交渉中には何度も決裂の危機に遭遇しながら、ある時には自分が追い込まれ、またある時には交渉相手を追い込みながら何とか大筋合意までこぎ着けたのだ。

 通商交渉が必ずいつも成功するとは限らない。現にWTOの下での多国間交渉である「ドーハ・ラウンド」は2001年11月にスタートしたが、11年経った今日でも纏っておらず、現在は凍結状態である。このWTO交渉の不調がFTAの乱立と拡散の原因となっている。また、FTAで言えば、2001年にブッシュ政権がスタートさせたキューバ以外の全ての米州の国を巻き込んだ広域FTA構想FTAAは2005年の妥結を目指したが、2006年には交渉を停止している。アメリカとブラジルとの対立が先鋭化したためである。EUと南米共同市場(メルコスール)との間のFTAも交渉は再開と中断を繰り返している。

TPP交渉は保護主義勢力との闘い

 TPPも当初の四カ国(ブルネイ、チリ、ニュージーランド、シンガポール)でさえ2002年から2005年まで4年間かけて交渉し、2006年に発効させている。しかし、参加国が増えれば増えるほど交渉妥結はより困難になる。

 筆者が2012年3月のブリュッセル・フォーラムに参加した際、通商問題に精通したアメリカの有力下院議員から「日本がTPP交渉に入ることによって、TPPの質が低下し、妥結に時間がかかるようになるから、日本の参加には反対だ」と言われた。80年代の日米通商摩擦を経験した世代の議員や自動車業界等アメリカの一部には日本の参加を歓迎しない向きがあるのも事実だ。

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