2022年11月29日(火)

日本再生の国際交渉術

2012年12月12日

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渡邊頼純 (わたなべ・よりずみ)

関西国際大学国際コミュニケーション学部長・教授

1953年生まれ。上智大学大学院国際関係論専攻で博士後期課程を単位取得満期退学。GATT事務局経済問題担当官、外務省経済局参事官などを経て2019年より現職。慶應義塾大学名誉教授。専門は国際政治経済論、GATT・WTO法、欧州統合論。近著に『詳解 経済連携協定』(日本経済評論社、監修)。

 TPPに参加すると自給率がさらに低下すると言って反対する人がいる。しかし、カロリー・ベースでは40%の自給率というが、生産高ベースでは67%あることを農水省も認めている。野菜や果物は約80%の自給率であるが、カロリーが低いためカロリー・ベースの計算ではこの高いレベルの自給率は反映されない。野菜や果物の関税率は3%程度のものが多いが、コメの778%と比べるといかに低い保護の水準か分かるわけだが、そのような低水準の保護でも十分やって行けるだけ競争力があるという証左でもある。また、カロリー・ベースでの計算式では100%国内産の飼料を使った肉類しか分子に入って来ない。日本では畜産保護のために大量の飼料用穀物を低関税で輸入しているが、この輸入飼料で育てられた牛や豚のカロリーは「国産」には入っていないのである。

 自給率を引き上げると言いながらコメで「減反」という生産調整をしないと戸別所得補償の対象としないというのも大きな矛盾である。自給率とは、国内生産を国内消費で割ったものなので、輸出も含めて国内生産を増加させることができれば、自給率は上昇することになる。自給率を伸ばす最善の方法は農産物の輸出を増やすことなのである。コメの減反を止め、国内消費を超える余剰部分については輸出に向けるべきである。

注:カロリーベースの食料自給率は、1人1日当たり国産供給カロリー(分子)を1人1日当たり供給カロリー(分母)で割って算出するが、さらに詳しくブレークダウンすると、 (国産(輸出含))供給カロリー÷人口(分子)を(国産+輸入ー輸出-在庫の増加量(又は+在庫の減少量))供給カロリー÷人口(分母)で割ったものとなる。

農産品の輸出入両面で有用なSPS措置

 TPPで日本からの農産品輸出のための環境作りを進めることができる。日本で1キロ当たり500円程度の日本米が中国で1300円程度まで価格が跳ね上がる。通関手続きや燻蒸(くんじょう)などの検疫措置のコストが上乗せされるからだ。TPPではこのような手続き上の問題についても「衛生検疫措置」(SPS措置)という項目の中で交渉できる。SPS措置は科学的根拠があれば導入が認められているが、偽装された保護主義的措置であれば撤廃を求めることができる。日本の農産品の輸出市場をアジア太平洋に拡げるためにルール作りをTPP交渉の中で行うべきである。

 また、逆に「食の安全」を守るためにもこのSPS措置は活用できる。科学的根拠があればより高い水準の安全基準を導入することはWTOのSPS協定でも認められているからだ。 

 このように農産品の輸出と輸入の両面でSPS措置は有用であり、そのルール作りに日本も早急に参加することは言うを待たない。

国民皆保険制度や「混合診療」の解禁は
TPP交渉では議論されない

 2012年3月、来日したウェンディ・カトラー米通商代表部(USTR)代表補は日本の医療制度や混合診療の問題がTPPで交渉の対象となることはないと言明した。そもそもWTOの金融サービス分野で国が提供する医療保険制度はサービス協定の適用除外分野となっていることから明らかなようにこの分野が国際的に交渉されることは考えられない。アメリカの営利目的の医療法人が日本に入ってきて診療費をつり上げ、その結果富裕層しか適切な診療を受けられなくなるという話はフィクションでしかないのだ。一部医療保険が適用されない薬剤や診療が行われた場合でも、保険の対象部分については保険からの支出を認めようという混合診療の問題はTPPとは別の次元でなされるべき議論である。

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