コメ農家は
戸別所得補償で守ればよい
農林水産省も、TPPへの参加が重要課題になってくると認識しているのだろう。日経新聞によれば、農水省の一部では「コメで譲り、砂糖や乳製品を取った方が賢いのではないか」、すなわち、TPP交渉においてコメの関税撤廃を受け入れるかわりに砂糖や乳製品の関税保護を勝ち取った方が良いのでないかと考えているという(日本経済新聞、2012年12月5日)。
理由は2つある。第1は、アメリカも砂糖や乳製品について特別扱いを求めており、日本の要求が通りやすいからである。第2は、砂糖や乳製品は産地が限られているが、コメは日本全国どこでもとれるからである。
第2の理由がなぜ理由になるのか。TPPは関税など国境での保護を撤廃しようというもので、国内で保護することは禁止していない。
したがって、農家戸別所得補償制度によって農家を保護することは可能だが、そのためには予算がいる。財務省に予算をくれと言えば、まず農水予算の中でひねり出せと言われる。
最終的には与党の力に頼ることになるが、産地の限られている砂糖や乳製品では多くの議員を見方に付けにくい。どの議員も自分の関心の予算がある。別のことで圧力を掛ければ、関心の予算で圧力をかけにくくなる。そうなるのは、予算の総額は決まっていることを、さすがに議員たちも理解しているからである(理解していない議員もいるかもしれないが)。
沖縄の砂糖を守るために予算を寄こせというのは、米軍基地で迷惑をかけているからと、多くの議員の理解が得られるかもしれない。しかし、それ以外は、それはあなたの選挙区の都合でしょうということになりかねない。コメなら、都市選出議員以外は、自分の選挙区の問題になり、多くの議員の賛同を得やすい。
コメの生産額は1.5兆円にすぎない。関税の撤廃でコメが半値になったとしても、0.75兆円の農家戸別所得補償で補えば、農家への打撃は避けられる。しかも、この時、消費者は0.75兆円得をしている。財政赤字は0.75兆円増えるが、日本としては何の損もしていない。
コメで譲り、砂糖や乳製品を関税保護し、コメは国内保護をするのが本当に賢いかもしれない。もちろん、大胆な改革によって日本の農業を強くするのが一番賢いのだが、戦後、何十年もそんな掛け声をかけてきたのに実現していないのだから、この程度の賢さで満足するしかないだろう。
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