2024年4月19日(金)

Wedge OPINION

2021年11月26日

周回遅れでは済まされない
行動規制一辺倒の末路

 本来、そのような政治的混乱を招かないために新型コロナウイルス感染症対策分科会(以下、分科会)の助言があるはずだが、分科会は「人流が減っていないので感染者数も減らない」というロジックから一歩も出ず、提示される解決案は常に行動規制しかない。

緊急事態宣言が解除され、10月に入ってから街に人が増えてきた。ここから、もう規制一辺倒の状況には戻れない (BLOOMBERG/GETTYIMAGES)

 少なくとも人流抑制が感染終束ひいては経済復活の鍵だというのであれば、春先から日常を取り戻し、潜在成長率の2~3倍のスピードで走っている欧米経済の現状は一体どう説明するのか。この点についてもなぜか分科会からの情報発信はなかった。

 戦略の失敗は戦術では取り返せない。日本は「世界最速のワクチン接種率」という現状考え得る最高の戦術を誇るが、「人流が元凶なので行動規制強化」という分科会由来の戦略思想に固執し続けた。なお、分科会は11月8日に感染状況に関する新指標を提示した。だが、人口1400万人を擁する東京の感染者数が2桁まで落ちても分科会からロードマップの提示はなかった。岸田政権は分科会から適切な距離を取り、今度こそ経済正常化という真の目的に舵を切るべきである。さもなければ欧米対比の成長率は周回遅れでは済まなくなる。

 ちなみに、上述したような日本の「弱い成長率」は「安い日本」に直結しつつある。最近になって日本の財・サービス、その背景にある賃金など、あらゆるものが諸外国と比較して安くなっているという、いわゆる「安い日本」に関する議論がにわかに増えたと感じる読者は多いのではないか。

弱い成長率が直結
「安い日本」に時間は無い

 こうした議論を展開する際、特定のグローバルな商品の価格を尺度にすることは多い。例えば、最近発表されたばかりのiPhone13に関して言えば、日本における価格が10年間で3倍の19万円に至っており、これが実に「日本人平均月収の6割」に達しているとの報道が話題になった。

 この「輸入品が高い」と実感する状況は日本の所得環境が海外のそれと比較して劣後し始めていることを意味しており、海外目線からすれば、文字通り、「安い日本」を意味する。

「安い日本」は「弱い円」の裏返しでもある。上記のような商品の価値は、いわゆる「物価」として広くあまねく認知される。物価はある国の居住者にとって財・サービスに関する「対内価値」を示す。

 これに対し、居住者が外からの財・サービス購入を検討する場合は「対外価値」を示す為替相場、要するに通貨の価値が重要になる。この点、年初来の為替相場では円独歩安の地合いが続いている。これは貿易量および物価水準を用いて算出される実質実効為替レート(REER:Real Effective Exchange Rate)で見ると顕著である。

 ここでは「REERはある通貨の総合力」とでも理解してもらえればよい。円のREERは21年9月時点で72・36まで下落している。近年では黒田日銀総裁の下での金融緩和およびこれに伴う円安・株高が最も勢いのあった15年6月に記録した70・66が変動相場制導入直後(1970年代前半)の安値に匹敵するということで話題になったが、今はその水準に肉薄している。

 今回、REERの動きを理論的に詳しく説明する紙幅はないが、兎にも角にも、この状況は日本人の購買力低下、外国人の購買力上昇を意味する。今年10月以降、原油を筆頭とする商品価格上昇が懸念されているが、商品高と円安の併存は資源輸入国・日本にとって最悪の展開の一つである。


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