2024年11月22日(金)

CHANGE CHINA

2021年12月27日

 中国の市場経済化への改革とは、政府の権限を制限し、利権を切り崩していくプロセスである。このため、既存の政府との利害対立は必至となる。意味のある制度改革を実現するために、政府を直接の顧客とし、政策提言を行うことを目指した。

行政独占の害を分析した提言書(筆者提供)

 まずは、市場経済の導入を進めるため、「中国の食糧安全:計画か市場か(2009年)」「公用事業民営化(05年)」などの提言を行った。一方で、国民の権利を守るための制度提案を行う「国家住宅保障制度の確立に関する研究(11年)」では、国民の住む権利を保障するための仕組みを提案した。身分証不携帯で収容拘禁された若者が死亡する事件が発生すると、体制のどこに問題があるのかを議論する「孫志剛事件討論会」を開催している。

 盛は、憲政に依拠した市場経済が必要と主張する。天則設立20周年記念誌に、「天則とは、神が与えた正義、天道である。この天道からはずれた政策は機能しない。中国の天道の伝統は、憲政の概念に一致する。憲政とは、中国の伝統に根ざしているのだ」と記している。

 国有企業改革に関しても分析と提言を続けている。「国進民退は中国社会に何をもたらしたのか討論会(09年)」を開き、さらに、「中国の国有企業の性質、業績と改革(11年)」、「中国の行政独占:その原因、行動およびその撤廃(13年)」を発表した。行政独占の分析では、通信、石油・原油産業、鉄道、銀行、製塩といった伝統的な国有(行政)独占市場に加えて、サッカー界の抱える問題も取り上げている。体育協会への過度な権力集中が行政独占と腐敗をもたらし、中国リーグの健全な発展が阻害されているという。

公正な市場競争とは何か

 天則は純粋民営企業として、政府に対する政策提言を請け負う活動をしてきた。その出自からライバルとなる体制内の研究所と緊張関係にあり、また政府との間でもしばしば摩擦が起きていた。17年頃、海外学術団体から資金提供を受けていたという批判が起こり、19年には法人登記が取り消され、天則経済研究所は30周年を待たずに閉鎖された。

 しかし21年現在、公正な市場、公正な競争条件という盛のグループが提起した問題は、あらためて注目されている。

 中国国内では、独占禁止法の運用も本格化し、行政独占の是正命令も出ている。また、民営企業主体のプラットフォームに対して競争阻害行為の是正を求め、法執行が強化されている。「共同富裕」の名のもとで、社会正義を達成することに政治の焦点が移っている。中国が加入を申請した「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」は、国有企業の活動が締約国間の公正な競争に損害を与えないことを求めている。

 盛は、現在も独自の分析を発表し続けている。最近の論文は、「国有企業のトップが犯罪に手を染める確率は、民営企業のトップの94倍である」と書き起こした。「21世紀の中国国有企業は、依然として雇用の維持と地域の経済発展の主力であることが求められ、退出のメカニズムもない。現在の国有企業の最大の任務は、民営企業、外資系企業に比べて競争力に劣る自分自身を、困難から救い出すこととなっている。そのための方策として見つけたのが、非市場的な力を使う、つまり公権力を使うことである」と分析している。

 非市場的な政治介入は個人の資質の問題ではなく、制度的問題である。中国が克服すべき課題は多い。

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■破裂寸前の国家財政 それでもバラマキ続けるのか
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漫画・芳乃ゆうり 編集協力・Whomor Inc. 原案/文・編集部
PART1 現実味増す財政危機  求められる有事のシミュレーション
佐藤主光(一橋大学大学院経済学研究科 教授)
PART2 「脆弱な資本主義」と「異形の社民主義」 日本社会の不幸な融合
 Column  飲み会と財政民主主義
藤城 眞(SOMPOホールディングス 顧問)
 COLUMN1  お金の歴史から見えてくる人間社会の本質とは?  
大村大次郎(元国税調査官)
PART3 平成の財政政策で残された課題  岸田政権はこう向き合え
土居丈朗(慶應義塾大学経済学部 教授)
​PART4 〝リアリティー〟なきMMT論  負担の議論から目を背けるな
森信茂樹(東京財団政策研究所 研究主幹)
 COLUMN2  小さなことからコツコツと 自治体に学ぶ「歳出入」改革 編集部
PART5 膨らみ続ける社会保障費 前例なき〝再構築〟へ決断のとき
小黒一正(法政大学経済学部 教授)
PART6 今こそ企業の経営力高め日本経済繁栄への突破口を開け
櫻田謙悟(経済同友会 代表幹事・SOMPOホールディングスグループCEO取締役 代表執行役社長)
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土居丈朗(慶應義塾大学経済学部 教授)

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Wedge 2022年1月号より
破裂寸前の国家財政 それでもバラマキ続けるのか
破裂寸前の国家財政 それでもバラマキ続けるのか

日本の借金膨張が止まらない。世界一の「債務大国」であるにもかかわらず、新型コロナ対策を理由にした国債発行、予算増額はとどまるところを知らない。だが、際限なく天から降ってくるお金は、日本企業や国民一人ひとりが本来持つ自立の精神を奪い、思考停止へと誘(いざな)う。このまま突き進めば、将来どのような危機が起こりうるのか。その未来を避ける方策とは。“打ち出の小槌”など、現実の世界には存在しない。


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