昨年夏、バイデン政権はアフガニスタンからの米軍撤退を完了させた。米軍撤退を巡っては、タリバンが実権を再び握ったことも影響し、内外でバイデン政権への批判が相次いだ。
米国内では、バイデン政権が全ての米国人を退避されるまで軍を撤退させないとしてきた方針を覆したとの批判が強まり、結果的に今日に至る同政権の支持率低下に繋がった。また、迅速な退避ができなかったとして、英国やオランダでは外務大臣が降格や辞任に追い込まれるなど、混乱は諸外国にも広がった。
しかし、バイデン政権の方向性が転換することはなく、対テロ戦争から幕引きを図り、今後は大国間競争への一本化が進むことになろう。中国の台頭とともに、中国への警戒感は共和党と民主党を問わず強まっており、支持率低下に苦しむバイデン政権としても、中国への強硬姿勢を堅持することで共和党からの批判をできるだけ逸らし、中間選挙での勝利に繋げたいところだろう。
企業の危機管理も米中対立に傾倒
そして、テレビや新聞などのメディアで米中対立を中心とする国家間イシューが日々報道されるなか、日本の海外進出企業の間でも米中対立から波及する地政学リスクへの懸念、関心が強まっている。具体的には、台湾有事を巡る駐在員の安全保護・退避やシーレーンへの影響、また、バイデン政権になって広まる人権デューデリジェンス(企業が生産過程などで人権侵害リスクを把握し、その予防や軽減に努める)を巡る企業の動きなどである。
これは実際に海外危機管理担当者たちと日々情報共有・交換する筆者としても強く感じるところだ。幸いにも世界で大規模なテロ事件が少なくなると、海外危機管理担当者たちの関心は徐々に薄れ、新たに直面する課題に優先的に対処することになる。
「昨年、米軍幹部や有識者から中国が侵攻する時期についての発言が相次いでおり、情勢を不安視している」、「米国で成立したウイグル強制労働防止法によって、今後生産過程で人権侵害がないことを証明することが大変だ」、「中国で成立した反外国制裁法では、第三国も加担すれば制裁対象になると明記されているので強く懸念している」など、筆者の周辺では米中対立から波及する地政学リスクに関する話が圧倒的に増えている。バイデン政権と同じように、海外危機管理担当者の間でも懸念事項の一本化が進んでいるように感じる。
依然として残る「テロの脅威」
だが、もともとはテロリズム研究者の筆者として、1つ大きな懸念を抱いている。それは、この20年間で生じた国際テロの構図は未だに世界に残っているということである。