教養としての中東情勢

2021年11月18日

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 イラクのカディミ首相の暗殺未遂事件(11月7日)は同国を不安定化させ、地域の緊張を高めているが、先月の総選挙で勝利者となった民族派サドル師の政治改革方針が犯行の要因となった可能性が高い。各政治勢力の対立や隣国イランとその影響下にある武装組織の関与、迫りくる米戦闘部隊の撤退など複雑に絡み合った事件の深層を探った。

(ロイター/アフロ)

目的は「暗殺」ではなく「警告」か

 首相を狙ったのは3機のドローン(無人機)だった。バグダッド中心部の厳戒な警備が敷かれる「グリーンゾーン」。その一角にある首相の自宅に向かってきたドローンのうち、2機は撃墜され、1機が直撃した。爆弾を搭載していたと見られている。首相は無事だったが、警備員ら数人が負傷した。犯行声明など犯人につながるような証拠は見つかっていない。

 首相は「臆病者のテロ行為」と非難、イラクに駐留部隊を派遣しているバイデン米大統領も「犯人は責任を取らなければならない」と表明。国防総省報道官は「イランの支援を受けた民兵が実行した」と隣国イランの介在に言及した。米国はイラン革命防衛隊がイラクの武装組織に無人機を供与していると見ている。

 しかし、真相はいまだ藪の中だ。ささやかれているのはイランの配下といわれるイラクの武装組織「カタイブ・ヒズボラ」(神の党旅団)ないしは「アサイブ・アフル・ハック」が実行したというものだ。だが、中東専門家の多くは今回の攻撃が首相の「暗殺」を企図した計画ではなく、「警告」の色彩が強いものだった、と見なしているようだ。

 「カタイブ・ヒズボラ」は昨年1月、同組織のムハンディス指導者がイラン革命防衛隊「コッズ部隊」のソレイマニ司令官とともに、米軍のドローン攻撃で暗殺されて以来、米国との対決姿勢を露わにしてきた。バイデン米政権もイラクの米軍基地などがロケット弾などによる攻撃を受けた際には、同組織の犯行として報復爆撃を実行してきたいきさつがある。

 同組織は米国によるテロ指定を受けているが、イラクでは国家の軍事部門の一つである。イラクには過激組織「イスラム国」(IS)と戦うために創設された民兵組織「人民動員隊」(PMF)があるが、「カタイブ・ヒズボラ」はその中核部隊だ。元々はイラクに侵攻した米軍に対抗するためイランの支援でできた組織であり、最も忠実な親イラン勢力と見られている。

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