■今回の一冊■
The Afghanistan Papers
筆者 Craig Whitlock、出版 Simon & Schuster
米軍が20年続けたアフガン戦争を放り出して逃げたのは当然の結末だった。アメリカが続けた悲劇の戦争の本当の姿を、政府高官や米軍の将校らの数々の証言をもとにあぶりだすノンフィクションだ。
米軍のアフガニスタンからの撤退劇は、タリバンが即座に全土を制圧する想定外の結果を生んだ。しかも、米軍は20年戦争の最後の最後に、テロリストと勘違いして、子ども7人を含む民間人10人を誤爆で殺す惨劇も起こした。米軍はなぜアフガン撤退で失敗したのか? 本書を読めば答えは明白だ。
アフガン戦争は最初から失敗が見込まれており、アメリカ政府はその実態を隠していたのだ。秩序だって撤収を完了し、アフガン政府軍がもっと持ちこたえるはずだ、という期待値がそもそも間違っていた。20年戦争で多くの人命を失い、多額の資金を投じたことがほとんど無駄に終わったともとれる事実を、歴代の大統領が隠していただけだ。
当事者が語る「泥沼化」の実態
本書は米ワシントン・ポスト紙の記者が、アメリカ政府の高官や外交官、軍関係者の生の発言をもとにまとめたノンフィクションだ。衝撃的なのは、戦争を遂行していた当事者たちでさえ、「これはダメだ」と思っていたことを明るみにしたことである。ざっと、いくつか本書で紹介されている関係者の発言を並べてみる。
‘America goes to war without knowing why it does,’
「アメリカはなぜ戦争をするのか理由がわからないまま戦争に突入した」
“There was no campaign plan in the early days,”
「戦争を始めた当初は、具体的な軍事プランがなかった」
“What were we actually doing in that country? We went in after 9/11 to defeat al-Qaeda in Afghanistan, but the mission became blurred,”
「われわれは一体あの国で何をしているのか? 9・11の後にアルカイダを倒すためにアフガニスタンに行ったのに、使命があやふやになってしまった」
“A major mistake we made was treating the Taliban the same as al-Qaeda,”
「タリバンとアルカイダを同類として扱ったのは大きな間違いだった」
“In Afghanistan our policy was to create a strong central government, which was idiotic because Afghanistan does not have a history of a strong central government,”
「アフガニスタンでわれわれは強固な中央政府を樹立しようとしたが、これは馬鹿げた戦略だった。アフガニスタンは歴史上これまで、ちゃんとした中央政権を持ったことがないのだから」
これらの発言は外野の評論家たちの言葉ではない。アメリカ国防総省の高官といった実際にアフガンでの戦争遂行に携わった当事者たちの言葉だ。本書が明らかにする関係者の証言のほとんどはアメリカ政府が実施した聞き取り調査から抜き出したものだ。アフガニスタン復興特別査察官(Special Inspector General for Afganistan)が600人以上を対象にしたインタビューの資料を入手し本当の声を拾った。