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2021年8月20日

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青木健太 (あおき・けんた)

中東調査会研究員

上智大学卒業、英ブラッドフォード大学大学院平和学部修士課程修了。アフガニスタン政府省庁アドバイザー、在アフガニスタン日本国大使館書記官などとして同国で約7年間勤務。外務省専門分析員、お茶の水女子大学講師を経て現職。著作に「ターリバーンの政治・軍事認識と実像――イスラーム統治の実現に向けた諸課題」(『中東研究』、2020年)など。

今年7月、米軍はアフガニスタン最大の拠点バグラム基地から撤退した(ANADOLU AGENCY/GETTYIMAGES)

「アフガニスタン政府は存亡の危機に直面している」

 米政府の対アフガニスタン援助の監査を担うアフガニスタン復興特別査察官が、今年7月30日に発行した報告書で警鐘を鳴らした文言だ。

 警告通り、タリバンは8月15日に首都カブールを制圧し、アフガニスタン政府は事実上崩壊した。バイデン米大統領が4月14日にアフガニスタンからの駐留米軍撤退を発表して以降、同国の治安情勢は悪化の一途を辿っていた。全国にある34州407郡のうち、5月~7月の3カ月間だけで27州にある118郡がタリバン側に陥落した(筆者集計)。国土の大半を山岳地帯に覆われたアフガニスタンでは雪解けに伴って春季に戦闘が活発化するのは例年のことだが、これほどまでの猛攻は過去20年間でも類例をみなかった。米軍撤退が生んだ「力の真空」が、国内治安情勢に影響を与えたことは明らかだ。

 タリバンは序盤戦、幹線道路や隣国との国境検問所などの交通の要衝を狙い、治安部隊に対してゲリラ戦を続けた。対して、補給路を断たれた治安部隊は一時退避を余儀なくされ、防衛ラインを引き下げつつ、空軍と特殊部隊の投入により都市部と幹線道路を重点的に守る戦略に転じた。タリバン側の進攻に直面して投降する兵士が後を絶たず、米国に供与された最新兵器も、相当数がタリバン側に収奪された。最初の州都陥落(8月6日)からカブール陥落までの様子は、まるでオセロをひっくり返すようだった。

 タリバンがこれ程までの軍事的勝利を収めることが出来た要因には、米軍から治安部隊に対する情報・偵察・兵站などの支援が止まったこと以外にもある。まず、治安部隊は装備・兵力でこそタリバンを上回っていたが、訓練度、忠誠心、士気の低さ、損耗率の高さといった質的な問題を抱えていた。巨額の援助流入を背景に、アフガニスタン政府の汚職は末端まで浸透しており、前線で戦う兵士の給与遅配などが常態化していた実態もある。治安部隊は、タリバンの進軍を押し返せなかった。

 次に、タリバンが部族長老や政府内部のシンパを通じて、郡知事や州知事と水面下で交渉を進めたことも大きい。実際、多くの州都では戦闘が発生しておらず、州知事が命の保証と引き換えに無血開城した事例が多かった。武装蜂起した元軍閥による反転攻勢も期待されたが、「勝ち馬に乗る」政治文化が根強いアフガニスタンでは寝返りや裏切りが繰り返され、結局タリバンを目の前に敗走した。

 しかし、タリバン復権が確実になっても、バイデン大統領は自らの決断を擁護している。8月16日、バイデン大統領は演説し、トランプ前大統領から引き継いだ合意により難しい二者択一を迫られたこと、アフガニスタンの治安部隊が戦線離脱し指導者が国外逃亡したことが政権崩壊の直接的な原因だと述べた。バイデン大統領は、あくまでも米国の国益に適わない他国の戦争のために、介入を続ける必要はないとの立場を崩さなかった。しかし、アフガニスタンが辿った惨めな結末は、国際社会から米国に対する信頼を大きく失墜させた。

諸勢力が参加する包摂政府樹立は可能か?

 タリバンが大統領府を制圧した直後、直ちに「アフガニスタン・イスラム首長国」の再興を宣言するのではないかとの見方もあったが、本稿執筆時点(8月19日)において、そうした事実は確認されていない。むしろ、タリバンは、アフガニスタン諸勢力が参加する包摂的な政府の樹立を志向する立場を示している。

 タリバンが主導的な立場を担ってゆくことは論を待たないが、事情はやや複雑だ。国土のほぼ全てを制圧したタリバンは圧倒的な軍事的優位にあるが、国際的に認められた政府は依然としてアフガニスタン政府のままであり、国家元首であるガニ大統領がアラブ首長国連邦(UAE)に脱出したことで権力の所在が曖昧になったのだ。

 流動的な状況を改善するため、8月15日、カルザイ前大統領は権力移行プロセスを担う「調整評議会」を立ち上げ、タリバンと新しい政府のあり様について話し合う姿勢を示した。17日、タリバンのバラーダル副指導者も、滞在していたドーハから南部カンダハール入りしている。タリバン政治事務所は18日、調整評議会との協議を持っており、対話に関心を示している。

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