2024年7月16日(火)

WEDGE REPORT

2021年8月20日

 一方で火種も残っている。サーレフ第一副大統領は17日、憲法規定に基づき、大統領が職務を遂行できない現状では自身が暫定大統領だと主張した。同副大統領は国内に留まっていることから、対タリバン抵抗戦線を築く可能性がある。これらの様々な異なる政治勢力をどのように一つにまとめるのか、そして将来の国家体制、停戦の実現、治安維持、司法、人権状況の中身がどうなるのかが、今後、タリバンが主導する新政府を各国が承認をするかどうかに多大な影響を与えるだろう。

 また、タリバンが取る統治方針も注目を要する。1996~2001年のタリバン「政権」時代、女子教育や娯楽の禁止に代表される、厳格にイスラム法を適用する統治が国民の反発を招いた。バーミヤンの大仏破壊にみられる偶像崇拝の禁止や、コーランや預言者の言行録ハディースを典拠とする刑の量が定められた身体刑(ハッド刑)の適用なども、国際的な孤立を深めさせた。現在、タリバン指導部は、イスラムの教えの範囲内で女子教育は認められる、と述べているが、あくまでも条件付きであり、額面通り受け止めることは慎重にすべきだろう。末端兵士の現場での振る舞いは、指導部の建前とは大きく異なっている。

 タリバン政権が匿っていたアルカイダが引き起こした米同時多発テロでは、日本人も24人亡くなっているように、アフガニスタンを再び「テロの温床」にしないことは日本にとって安全保障上の重要課題だ。現在でも、国際テロ組織約20グループがアフガニスタンで活動しているといわれており、そのリスクが消失していない。「イスラム国」(IS)はイラクやシリアで低迷したとはいえ、依然としてアフガニスタンで断続的に攻撃を続けている。また、アルカイダも隠然と活動を継続しており、ウイグル系、コーカサス系、中央アジア系のイスラム過激派勢力の存在も囁かれている。

(出所)公安調査庁資料などを基にウェッジ作成 写真を拡大

 日本政府としては、今後も正確な現地情報を収集、分析することが出来る体制を構築することが重要である。新しい政府を各国が承認せず、アフガニスタンがブラックボックス化してしまうと、国際テロ組織の動向を把握することができない。そうなれば、米国製兵器がタリバンの手中に収まっている現状を踏まえれば、国際テロ組織が時間の経過とともに力を蓄え、再び米国及びその同盟国にとっての脅威となる可能性は排除できない。今後、西側諸国、中国、ロシアなどの動きを見極めることが必要だ。同時に、現地語(パシュトゥー語、ダリー語)に精通した専門家の育成も重要だろう。


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