アフガニスタンのイスラム反政府勢力タリバンは全土で政府軍への波状攻撃を開始、州都などへ進撃した。米駐留軍の撤退が加速するのを尻目に、一気に攻勢に出た格好だが、政府軍の一部には戦わずして隣国に逃亡する部隊も出ており、国民に動揺が広がっている。今後の焦点は米大使館員の“脱出”だが、実際に国外退去が始まれば、各国とも雪崩を打って追随するのは必至だ。
第2の都市カンダハルに突入
カブールからの報道などによると、タリバンは9日までに南部カンダハル州の州都カンダハルに突入、一部を占領した。市を防衛する政府軍と激戦が展開されているもよう。カンダハルはタリバン誕生の地でもあるが、内戦でタリバンが同市に入ったのは初めてだ。米軍の撤退が続く中、アフガン情勢が新たな段階に入ったことを示す動きと言えるだろう。
カンダハルへの進撃に先立って、タリバンが攻勢を強めたのは北方地域だ。7日、北部バドギス州の州都カライナウに攻撃を仕掛け、現在も戦闘中。子どもを含む民間人多数が死傷したもよう。政府軍がタリバンに空爆を実施するなど反撃しているが、刑務所から数百人が脱走したとの情報もある。
また北東部バダフシャン州ではタリバンの攻撃で、政府軍兵士が戦わずして戦線を離脱し、千人以上が隣国のタジキスタンに越境逃亡した。米ワシントン・ポストによると、中国、タジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン各国と接する北部地域の国境地帯はすでにタリバンが制圧し、検問所での関税を徴収しているという。
北部バルフ州の同国第4の都市マザルシャリフでは、トルコとロシアが領事館を閉鎖したと伝えられている。タリバンはイランと隣接する西部ヘラート州でも攻勢を掛け、ここ数日で支配地域を急拡大、イスラムカラ検問所を占領した。タリバン当局者の1人は同組織が「全土の85%を制圧した」と語っている。この主張は誇張されたものとしても、事実上、国土の半分以上がタリバンの支配下にあると見られている。
アフガン情勢に詳しいベイルート筋は「ダムの決壊が始まった」として、タリバンの攻勢によって政府軍の瓦解が一気に進む懸念があるとする一方、タリバンの戦線が伸びきって攻撃が尻すぼみに終わる可能性があることに言及。「地方に根を張る“軍閥”(武装組織)が勝ち馬に乗ってタリバンに加担するのかどうかが戦況の行方を左右する」と指摘した。