2024年11月22日(金)

中東を読み解く

2021年7月11日

“夜逃げ”同然の撤収

 こうした中、バイデン米大統領は8日、ホワイトハウスで演説し、アフガニスタンからの米軍撤退を8月末までに完了させる方針に変わりのないことを強調、「無期限に駐留を続けることは米国益に沿わない。われわれは国造りのためにアフガンに行ったわけではない」などと述べ、早期撤収への批判に反論した。米情報機関などの分析によると、米軍の撤退後、半年以内にもアフガン政府が崩壊する可能性がある。

 大統領は「アフガニスタンに留まれという人たちに尋ねたい。これ以上、どれだけ多くの若者の命を危険にさらしたいのか」と感情をむき出しにした。大統領は元々、アフガンに軍を駐留させておくことには批判的だった。最近は記者団からアフガン政府崩壊の可能性などを再三問われ、いら立ちを露わにしていたが、今回の演説であらためて何が何でも撤退させるという考えを示したかったようだ。

 米国防総省によると、4月から始まった撤退作業はこれまでに「90%が完了」した。2500人いた駐留軍のかなりの部分がすでに撤収したと見られている。現地からの報道によると、米空軍の主要な拠点だったバグラム空軍基地では、5日未明に撤収が完了したが、最後の部隊は基地を引き継いだ政府軍に通告することもなく、“夜逃げ”するように基地を後にしたという。

 政府軍側は米軍が撤収して2時間以上経って初めて米軍の姿が消えたことを知ったという。しかも、米軍が撤退して政府軍が基地に入る間に、何者かが基地内に侵入し、米軍の残した軍事物資の一部を略奪するというおまけまでついた。

 こうした撤退をめぐる混乱は今後も続きそうだが、バイデン政権が最も懸念しているのがカブールの米大使館の安全をめぐる問題だ。

 大使館はカブール中心部の警備の厳しい「グリーン・ゾーン」にある。同地域は高い塀に囲まれ、テロリストらの襲撃を防ぐように対策が施されており、大統領宮殿や各国大使館などもここに位置している。しかし、タリバンの攻勢が強まれば、カブールにも危険が迫るのは必定。米大使館の閉鎖や縮小、大使館員の国外退去計画も密かに練られている。

 ワシントン・ポストによると、米大使館には現在、米市民約1400人の他、アフガン人職員ら約4000人が働いている。情勢が悪化すれば、これら館員の国外退去が現実味を帯びることになるが、国防総省は海兵隊ら650人規模の部隊を残留させて警備を担わせる計画だ。またカブールの国際空港については、米軍とトルコ軍が警備を担当することが決まっている。

 バイデン政権は米大使館に攻撃の矛先が向かないようタリバンと交渉する意向のようだが、各国の外交団は米大使館の外交官撤収や縮小に追随すると見られており、国外退去計画の策定を急いでいるようだ。しかし、こうした動きは「見捨てられた」と受け止めるアフガン人を浮足立たせることになり、今後、ガニ政権とバイデン政権との間で緊張が高まることになるだろう。

  
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