中東を読み解く

2021年6月5日

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 イスラエルで6月2日、野党8党がバネット政権の樹立で合意した。通算15年も首相の座にあった「ネタニヤフ時代」の終焉が濃厚になった。新政権は議会(120議席)の承認を得て正式に発足する。だが、新政権の帰すうはなお揺れ動く右派の1議員にかかるという綱渡りの状況。ネタニヤフ氏が最後の巻き返しを狙う中、政治ゲームは完全に終わってはいない。

(Travel Wild/gettyimages)

組閣期限の38分前に大統領に通告

 組閣を主導したのは第2党の中道政党「イェシュアティド」の党首ラピド元財務相だ。第5党の極右政党「ヤミナ」の指導者ベネット元国防相と首相輪番制で合意したものの、政権に参画するのが極右から左派、さらにこれまで政権に参加したことのないアラブ系政党まで含んだ寄せ集め所帯だけに、閣僚の配分などで土壇場まで調整に難航。ラピド氏がリブリン大統領に「政権発足が可能になった」と伝えたのは組閣期限の3日午前零時の僅か38分前だった。

 だが、地元のメディアなどによると、本当の“爆弾”は最初に首相を務めるベネット氏の身内「ヤミナ」に潜んでいた。「ヤミナ」は3月の総選挙で7議席を獲得した。そのうちの1人はアラブ政党まで入る政権に反発し、早々と連立協議から離脱した。「ヤミナ」の所属議員は6人に減ったが、「反ネタニヤフ」で結束した野党8党の議席数は過半数を1つ上回る61議席で、ギリギリ政権発足が可能だった。

 ラピド氏らは7日にも議会で新政権の承認を得ることを目指し、ネタニヤフ氏率いる右派「リクード」のレビン国会議長の交代動議を61人の議員名を明記して提出した。ラピド氏が議長交代を急いだのは議長権限で新政権の承認審議を14日まで遅らせることが可能で、ネタニヤフ氏がこの間に右派系議員らを抱き込むことを恐れたからだ。

 だが、「ヤミナ」のニール・オルバッハ議員が3日、議長交代動議から自分の名前を削除するよう要求、混乱が一気に広がった。議長交代動議に反対するのは新政権の承認にも反旗を翻す前触れではないか、との懸念が高まった。ネタニヤフ陣営に寝返るのではないか、といった憶測も飛び交った。同議員は右派の支持者から左派と手を組むことに猛烈な批判を受け、「連立政権に賛成するくらいなら議員を辞職する」などと示唆していた経緯もあった。

 この事態にベネット氏がオルバッハ議員と急きょ会談、説得に当たった。同議員の賛成がなければ、過半数に達しないため新政権発足は不可能になってしまう。そうなれば、2年半で5回目の総選挙を実施せざるを得なくなり、時間稼ぎを狙うネタニヤフ氏の思う壺にはまることになる。ベネット氏も必死だった。

 オルバッハ議員は会談後、ベネット氏と行動を共にするとし、「同氏の国家のための取り組みを支持する」とツイート、ネタニヤフ氏らと話し合うつもりのないことを明らかにした。しかし、ラピド氏らは結局、議長交代動議を14日と見られる新政権承認後に提出することにした。オルバッハ議員の心情に配慮したものと見られている。

 だが、逆に言うと、最後まで同議員の心変わりが懸念されているともとれる。イスラエル・タイムズ紙などによると、ネタニヤフ氏やリクードは「ヤミナ」や同じ右派政党「新しい希望」の4議員に攻撃のターゲットを絞り、自宅へのデモなど抗議行動を強めており、連立政権の樹立は最後の最後まで予断を許さない状況になってきた。

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