中東を読み解く

2021年5月21日

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 イスラエルとパレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスは5月21日未明をもって停戦に合意した。11日間の戦闘でパレスチナ側232人、イスラエル側12人の犠牲者が出た。エジプトが仲介した今回の停戦が「恒久的な停戦」に結びつくかは分からないし、過去の停戦同様、すぐにも破られる恐れも強い。衝突を振り返り、勝ち組、負け組は誰なのか、総括してみた。

停戦合理を喜ぶガザ地区の人々(REUTERS/AFLO)

一番の負け組はネタニヤフ首相

 イスラエルのネタニヤフ首相は「国の安全が確保されるまで戦闘を続行する」と強調していたが、米国のバイデン大統領に事実上の“最後通告”を突き付けられ、目標を達成できないまま停戦に追い込まれた。最大の負け組と言えるのではないか。

 攻撃に踏み切った首相の狙いは第一に、ハマスの軍事的な脅威を一掃することだった。イスラエル側の発表などによると、イスラエル軍は航空機数百機や戦車などを投入して計200時間に及ぶ猛攻撃を加え、ハマスや過激派組織「イスラム聖戦」の戦闘員約130人を殺害。ハマスがガザ全体に建設した地下トンネルのうち96キロ相当を壊滅し、ロケット発射装置約80基を破壊した。

 しかし、電気、水道といったインフラ施設や住宅、病院なども含め、事実上無差別攻撃したものの、ハマスの軍事的脅威を完全に除去することはできなかった。確かにハマス保有のロケット弾貯蔵庫を狙い、トンネルを集中的に攻撃し、甚大な損害を与えたのは事実だろう。

 ただ、ハマス保有のロケット弾は1万発から3万発と言われており、無傷で残ったロケット弾も相当数あると見られている。米国のロス元中東特使は米紙に対し「ハマスがロケット弾を保有している限り、停戦は不可能」と指摘、イスラエル国内でも「何のために戦争したのか」と戦果を疑問視する声がある。

 第二は首相が密かに抱いていたと思われる政治的な狙いも思惑通りに運ばなかった。刑事被告人でもある首相は先月、選挙後の新政権樹立に失敗し、窮地に追い込まれていた。そうした時にハマスとの戦闘が始まった。イスラエルのメディアなどによると、首相はこの武力衝突を政治的な苦境から脱するために利用、「テロリストに立ち向かう強い指導者」(ベイルート筋)の姿を国民に示し、政権維持を狙ったと見られている。

 だが、国民がこぞって首相の指導力を支持するところにまではいっていないようだ。首相の組閣失敗の後を受け、現在連立工作を行っているラピド元財務相は「軍は成功したが、ネタニヤフ政権は失敗した。許し難い外交と安全保障の失策だ」と非難のトーンを強めている。エルサレム・ポスト紙によると、ラピド氏の連立工作は進展しており、首相の思惑とは逆の展開だ。

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