軍事的敗北、政治的勝利のハマス
一方の当事者のハマスは「軍事的には敗北、政治的には勝利を手に入れた」といったところではないか。軍事的には、イスラエルの発表通り、多数の戦闘員が殺害され、ロケット弾や発射装置の多くが破壊されて甚大な損失を被った。対イスラエル戦の武器となってきた「メトロ」(地下鉄)と呼ばれるトンネル網も壊滅的な打撃を受けた。
確かにロケット弾の一部は70~80キロ離れた商都テルアビブや聖地エルサレムにまで到達し、イスラエル国民に恐怖を与えた。しかし、発射したロケット弾約4000発の90%以上がイスラエルの防空網「アイアンドーム」に破壊され、思うような軍事的成果を挙げることはできなかった。トンネルの再建などには長い時間が必要だ。軍事的には空軍力など圧倒的な差があるイスラエルの前に、敗北したという評価になるだろう。
しかし、政治的にはパレスチナ人社会やアラブ世界でのハマスのプレスティージは上がった。パレスチナ自治区はガザを支配するハマスと、ヨルダン川西岸を統治する自治政府に分断しているが、パレスチナ人社会の人気はハマスの方が高い。現にパレスチナ評議会(議会)の第1党はハマスである。
自治政府のアッバス議長は15年ぶりの選挙を5月22日に予定していたが、イスラエルが東エルサレムの選挙を認めない恐れがあるとしてこのほど、選挙を無期限延期した。延期の本当の理由はハマスの勢力拡大を懸念したためとされる。パレスチナ人の間では、今回もイスラエルに対して武力闘争を挑んだハマスの人気は一段と高まったと見られている。
ハマスはまた、アラブ世界でも、忘れていた「アラブの大義」「パレスチナの大義」を思い起こさせたとして評価されている。特に、トランプ前米政権の仲介でイスラエルとアラブ諸国との関係改善が進んできたが、パレスチナ問題やイスラエルの無差別攻撃をクローズアップさせたことで、こうした動きにストップをかけたと一部で評されている。アラブの大国サウジアラビアがイスラエルと国交を結びにくくなったのは間違いない。