2024年12月3日(火)

中東を読み解く

2021年5月31日

 政治的な混乱が続いてきたイスラエルに少数与党連立政権が誕生する見通しとなった。だが、政策もイデオロギーも異なる政党の寄り合い所帯で、内実はいつ崩壊してもおかしくない“ガラス”の政権だ。通算15年も権力の座にあり、刑事被告人の身でもあるネタニヤフ首相は土壇場の切り崩し工作に必死。新政権発足を阻止し、2年半で5回目の総選挙に持ち込むことを目論んでいる。

新政権樹立に抗議する右派の人々(AP/AFLO)

「反ネタニヤフ」だけの“野合”

 同国では3月の総選挙を受け、第1党になった右派「リクード」を率いるネタニヤフ首相が連立工作を行ったが、失敗。現在は第2党の中道政党「イェシュアティド」の党首ラピド元財務相(57)が組閣工作を行っている。こうした中で、第5党の右派政党「ヤミナ」の指導者ベネット元国防相(49)が30日、ラピド氏の連立協議に参画すると表明、反ネタニヤフ連合による政権発足の可能性が濃厚となった。

 イスラエルの地元メディアなどによると、ラピド氏とベネット氏は交代で首相を務めて政権運営をすることで合意。2023年9月までベネット氏が、その後、25年末までをラピド氏が首相となる輪番制だ。ベネット氏が首相の間、ラピド氏は外相に就任するという。ラピド氏の「イェシュアティド」は議会120議席のうち17議席、ベネット氏の「ヤミナ」は7議席を獲得している。

 政権に参加すると見られているのは中道政党から「イェシュアティド」と「青と白」、右派から「ヤミナ」とサール元教育相率いる「新しい希望」、左派から「労働党」など2党の計7党だ。この7党だけでは57議席と過半数には届かないが、4議席を持つアラブ系政党の「ラアム」が閣外協力するという。この結果、反ネタニヤフ勢力は過半数をわずか1議席上回るギリギリの連立政権が発足する運びとなった。

 ラピド氏は政権発足の準備が整ったことを組閣期限の6月2日までにリブリン大統領に報告、この後、議会での信任投票を得て、新政権が正式に発足する見通しだ。新政権は元ネタニヤフ政権の閣僚だったラピド、ベネット、サールの3氏が中核となる。しかし、この動きに収まらないのがネタニヤフ首相だ。3人が自分の政権の閣僚だったこともあり、なおさらだ。

 首相は新政権構想を「世紀の欺瞞(ぎまん)」と罵り、「これは団結でもなんでもない。日和見主義者の政権だ。こうした政府は樹立されるべきではない」などと非難した。首相の指摘通り、主義主張のかけ離れた諸政党の集まりであることは事実。“野合”と批判されても否定できない。特に右派のベネット氏はユダヤ人至上主義者であり、閣外協力を得るアラブ系の「ラアム」とはまったくそりが合わない。

 ベネット氏自身、「ラピド氏とは重要な問題で相違がある」と考え方の違いを認めている。ネタニヤフ首相は30日、ベネット氏に「われわれの右派陣営に戻ってこい。まだ遅くはない」と呼び掛け、ネタニヤフ、ベネット、サールの3氏による首相輪番制を提案した。

 だが、ベネット、サール両氏は提案を拒否した。その理由は権謀術数を繰り返してきたネタニヤフ氏を信頼できないということだろう。提案を断られたネタニヤフ氏にはほとんど策は残っていない。だが、一部では、幾多の危機を乗り越えてきたネタニヤフ氏が新政権発足を阻止し、総選挙に持ち込む秘策を持っているのではないかという観測も根強い。


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