2024年7月16日(火)

中東を読み解く

2021年6月5日

ベネット氏とはどんな人物か

 新首相に最も近いベネット氏は3日、イスラエルのテレビ局とインタビューで、“野合”と批判されている新政権を発足させることについて、総選挙を繰り返す「政治的混乱から同国を脱却させるため」と強調、裏切り者と右派から非難されていることに反論。「自分がイスラエルで最も憎まれた人間になるだろう」と子どもたちに話したことを吐露したが、同国以外ではほとんど無名の人物だ。

 地元メディアなどによると、同氏は裕福な米国からの移民の息子。敬虔なユダヤ教徒でテルアビブ郊外に妻と4人の子どもと住む。イスラエル軍の精鋭である特殊部隊に所属していた軍歴を持つ。1996年、占領中のレバノン南部で部隊が武装組織に包囲されて撤退中、イスラエル軍の砲撃で国連施設に避難していた民間人102人が虐殺された事件の渦中にいた。

 退役後、米国で起業、詐欺防止のソフトウェア関連の会社を設立。軌道に乗った同社を約1億5千万ドルで売却したとされる。政治の世界に入ったのは2006年で、ネタニヤフ首相の首席補佐官を2年間務めたが、首相に解任された。ベネット氏が解任されたのはネタニヤフ氏の夫人サラ氏と衝突したためだったという。ネタニヤフ夫妻はベネット氏の政界進出の際、同氏を中傷するキャンペーンを行ったため、両者の関係はさらに悪化した。

ベネット氏は政権を去った後、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸のユダヤ人入植運動団体の代表に就任した。これで分かるように、同氏はヨルダン川西岸のイスラエル併合論者。パレスチナ国家はイスラエルにとっての“自殺”とまで言い切り、「テロリストは釈放せずに処刑すべきだ」と話したこともある。こうしたことから中東和平交渉が進展する見通しは小さい。

同氏は連立政権で手を組むアラブ系政党「ラーム」のアッバス党首について、「テロの支持者」と批判したこともあるが、インタビューでは「彼はテロの支持者ではなく、誠実な人物だ。イスラエル市民を助けようとしている勇気ある指導者だ」と述べるなど、変わり身の早さも見せた。支持者らは同氏を現実主義者と評しているという。

 ベネット氏は2012年、極右政党「ユダヤ人の家」を立ち上げ、翌年の総選挙で12議席を獲得した。ネタニヤフ政権では、国防、教育、経済の各閣僚を歴任。18年に新政党「新右翼」を設立、その後党名を「ヤミナ」に変更した。外交では、対イラン強硬派であり、イラン核合意への米国復帰には反対だろう。ただ、バイデン米政権とはネタニヤフ氏よりもうまくいくとの見方が強い。

  
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