2024年12月6日(金)

中東を読み解く

2021年6月20日

 6月18日投票のイラン大統領選挙で反米保守強硬派のイブラヒム・ライシ師(60)が圧勝する見通しとなった。穏健派や改革派の有力候補が事前の資格審査で失格となり、同師の当選がほぼ確約された茶番レース。投票率も初めて50%を割る公算が濃厚で、首都テヘランは白け切った雰囲気だ。最高指導者ハメネイ師の後継者と目される“革命体制の申し子”ライシ師とは何者なのか。

(btgbtg/gettyimages)

ハメネイ師に取り立てられ出世

 欧米や中東のメディアなどによると、ライシ師はハメネイ師と同じ、北東部のイラン第2の都市マシャド出身。1979年の革命直後から頭角を現した。わずか20歳でイラン北西部ハマダン州の判事となり、その後テヘランの革命法廷の検事に抜擢された。

 ライシ師を有名にしたのがこの革命法廷の検事時代だ。1988年のこの当時、イラン・イラク戦争が終結を迎え、敵国イラクの支援を受けていた反体制派ムジャヒディン・ハルクの活動家に厳しい判決が相次いでいた。同師は反体制派に次々に死刑判決を下した“死の委員会”のメンバーだったといわれている。

 本人はメンバーだったことを認めてはいないが、2カ月間で約5000人に死刑が言い渡された。反体制派は3万人が処刑されたと主張している。しかも適切な裁判手続きを経ないケースが相当数あったといわれ、イラン史に残る「暗黒の集団処刑」と指摘されている。80年代初め、ライシ師はハメネイ師に近いイスラム導師の娘と結婚した。

 ライシ師はその後、ハメネイ師に急接近、検事総長も務めた。2016年にはハメネイ師からイラン最有力のコングロマリットの1つ「イマーム・レザ廟財団」の理事長に任命された。同財団はマシャドにあるシーア派の聖地を管理・運営する一方で、農業、不動産、建設業などの企業を経営する事業体で、同国の政治、経済の利権にも大きく関わっている。公的な機関でありながら、経済活動を展開するようなところは革命防衛隊と同じだ。

 同財団の資金源は元々、革命時に革命政権によって接収されたパーレビ王朝の資産などが土台になっている。だが、財団の経営状態や収支は一切公開されておらず、ハメネイ師だけに報告義務があるなど聖域化。税金の優遇を受けるなど同国の“暗部”との批判も強い組織だ。

 ライシ師は17年の大統領選挙にも保守強硬派の候補として出馬したが、ロウハニ師の再選の前に敗れた。19年に再びハメネイ師に取り立てられ、司法府代表という地位に就いた。ライシ師は汚職追放を掲げ、ハメネイ師との関係を一段と強固にし、権力基盤を固めた。しかし、同じ年、トランプ米政権はライシ師を制裁の対象に加えた。


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