2024年11月22日(金)

中東を読み解く

2021年6月20日

預言者ムハンマドの血筋の黒ターバン

 ライシ師はシーア派の最高位アヤトラの称号こそ持っていないが、イスラムの預言者ムハンマドの血筋であることを象徴する黒のターバンを身に着けている。初代最高指導者のホメイニ氏、2代目のハメネイ師も共に黒ターバンだ。「82歳という高齢のハメネイ師がライシ師を自分の後継者の3代目最高指導者に決め、その布石として大統領にさせたのではないか」(ベイルート筋)というのが一般的な見方だろう。

 大統領選挙に出馬する候補者の適格性を事前審査する「護憲評議会」は今回、約600人の候補者を7人にまで絞った。穏健派のロウハニ現大統領は3選を禁じた憲法の規定により出馬はできなかったが、事前審査の結果、大統領と同じ保守穏健派のラリジャニ前国会議長や改革派のジャハンギリ第1副大統領は失格し、候補者からはじかれた。

 ハメネイ師は国民から、有力候補者を失格させた事前審査への批判が高まると、一部の審査に間違いがあったと言及したものの、審査結果は変わらなかった。「護憲評議会」がハメネイ師の意向に沿って、ライシ師の対抗馬であるラリジャニ前国会議長らを外したと見る向きが多く、国民は選挙前から白け切っていた。

 ハメネイ師はライシ師を大統領に就けるという目的は達成したかもしれないが、低い投票率は国民が出来レースにそっぽを向いた抗議の結果だ。投票率が50%を切れば、革命以降行われた12回の大統領選挙で初めてのことだ。だが、ライシ師にとって大統領に就くことは諸刃の剣でもある。

 反米強硬派で、欧米嫌いというライシ師は国家主導の経済政策を支持し、外国の投資を呼び込むような自由経済には反対だといわれる。だが、ロウハニ政権を批判し、米国非難だけ唱えていればよかったこれまでとは立場が決定的に異なる。米国の核合意復帰交渉をうまく運ばなければ、制裁解除もままならず、このまま経済が低迷を続ければ、国民の批判は直接、ライシ政権に向いてくるだろう。

 このためか、選挙期間中には「制裁を解除させるのは政府の責任だ」と述べ、大統領に当選した場合には核交渉を継続することを示唆していた。ロウハニ政権の任期は8月初めまであるが、すでにレームダック状態だ。ハメネイ師はライシ師に傷をつけないよう、ロウハニ大統領に核交渉をまとめさせ、制裁が解除された「果実」はライシ大統領が獲得するようにしたいハラといわれるが、国際政治はそれほど甘くはない。

  
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