2024年4月27日(土)

ベストセラーで読むアメリカ

2021年10月11日

 正直、驚くような証言のオンパレードだ。そこから浮かび上がるのは、泥沼化する戦争の実態を隠すために、アメリカの歴代政権が対外的には嘘の説明を続けていた事実だ。バイデンの演説を聞くよりも、アメリカがアフガニスタンを投げ出さざるを得なかった事情がよくわかる。本書は、ニューヨーク・タイムズ紙の週間ベストセラー・リストで、9月19日付ランキングに2位で初登場し翌週も6位につけた。

20年間の戦争の目的は何だったのか

 アメリカが20年前にアフガニスタンに侵攻したのは、911テロの首謀者であるウサマ・ビンラディンらアルカイダの一味を掃討するためだった。しかし、ビンラディンに逃げられ、米軍は振り上げた拳の落としどころを見失った。そのまま泥沼の20年戦争に突入する。

 もともとはアルカイダが敵だったはずが、米軍はタリバンも敵として認定し、戦争の目的も民主国家の樹立にシフトし、そのための軍隊や警察組織の創設など手を広げすぎて収拾がつかなくなっていく。そもそも、911テロへの報復として感情的になって戦争を始めた時点でアメリカの敗北は宿命づけられた。次の一節が示唆するように、何を達成するのか明らかにしないまま戦いを始めると、「作戦は成功した」と永遠に言えないからだ。

Military strategists are taught never to start a war without having a plan to end it. Yet neither Bush nor anyone else in his administration publicly articulated how or when or under what conditions they intended to bring military operations in Afghanistan to a conclusion.
「軍の戦略担当者たちは、戦いを終わらせるプランを持たずに戦争を決して始めてはいけないと教わる。それにもかかわらず、ブッシュ大統領をはじめ政権の誰ひとりとして次のことを国民に対し明確にしなかった。どのように、いつ、どんな条件のもとで、アフガニスタンの軍事行動を終わらせるのかということを」

 アフガン戦争を始めたばかりのころ、当時のラムズフェルド国防長官が「アフガン戦の戦略を4時間で練り直せ」と部下を急かしたエピソードが出てくる。通常は数か月かかる戦争プランの練り直しを、軍事経験のないエリート官僚が書類を作り直すシーンには背筋が凍る。

 ラムズフェルドは一方で、かつてのソビエトのように泥沼にはまることを最も恐れ十分な兵量を投入することを渋った。アフガン戦を始めてから2カ月後の2002年1月時点で、アフガンにはわずか4003人しか配備しなかったのに、同時期に開催した02年ソルトレイクシティ冬季オリンピックの警備には米軍から4369人を投入した。

 戦争を始めた当初、アフガンでは具体的な軍事プランがなく、やることがなくてビデオゲームをしている兵隊がいたという証言も紹介されている。そして、戦争を始めた半年後にはブッシュ政権はアフガン戦争は成功したと思い、03年のイラク戦争の準備へと傾斜していく。早くもアフガニスタンのことを忘れていくのだ。

見えていなかったタリバンのさまざまな側面

 置き去りにされたアフガン戦争は混迷を深めていく。最大の難問は、アメリカ軍にとっての敵が誰なのかがわからなくなった点にある。そもそも、アルカイダとタリバンは別物なのに、アメリカは同類とみてタリバンとの戦いを続ける。しかも、タリバン抜きで実質的なアメリカの傀儡政権を樹立した。

 しかし、アフガン人の多くはタリバンに共鳴しており、タリバンといってもさざまな派閥があることをアメリカは理解できていなかったといえる。アメリカ軍の将校がアフガンの地元有力者の一人と交わした会話が印象的だ。将校が「タリバンとはいったい何者なんだ?」と聞くと、アフガンの有力者は「どのタリバンのことだ?」と問い返してきたという。

 アメリカは現地の社会や文化を理解しないまま、アフガニスタンで無謀な国家建設に乗り出した。そんな調子では初めからうまくいくはずはなかった。近代的な金融制度を整えようとしたのも、次の一節が示すように無謀だった。

A senior USAID official who was advising the Afghan government noted that the country had no banks and no legal tender; warlords had printed their own, largely worthless, currency. A Finance Ministry existed, but 80 percent of the staff could not read or write.
「アメリカ国際開発庁の高官はアフガニスタン政府に助言するなかで次のことに気づいていた。アフガニスタンには銀行も法定通貨もない。各地の武装集団の長が自分たちで紙幣を印刷しており、ほとんど価値がなかった。財務省はあっても、スタッフの80%は読み書きができなかった」

 軍隊や治安部隊をアフガニスタンで新設するという挑戦も無謀だった。そもそもアメリカ政府に、一国の軍隊をゼロからつくりあげる能力などないのだ。


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