2024年4月20日(土)

ベストセラーで読むアメリカ

2021年10月11日

 タリバンが今回、アフガニスタン全土を予想以上に早く制圧したことに対し、バイデン大統領はアフガン軍が弱腰だったと批判する発言をしている。実態はしかし、きちんとした軍隊を育てられなかったのが真相ではないのかと思わされる証言が多い。

 例えば、米軍の関係者が現地で直接、軍に志願したアフガン人に「もしアメリカ軍がアフガンから撤収しても軍隊にとどまるか」と質問して回ったところ、ほとんどが「いいえ」と答えたという。

 米軍はアフガン人たちを兵隊として教育するのにとても苦労した。アフガニスタンでは複数の現地語があり最初に通訳の確保に苦労する。米軍の教官が座学でノルマンディー上陸作戦の説明をしたときに通訳が翻訳不能な事柄も出ててきた。海の満潮や干潮という概念をアフガン人は知らなかったのだ。

 アフガンでは識字率が低く、数を数えられない志願兵も多かった。米軍のある将校は、アフガン人は時間にこだわらないため、指定した時刻通りに行動することの必要性をなかなか理解してくれなかったと証言している。

 アフガニスタンの国防省の幹部と、ある部族の有力者との会話がすべてを物語る。人数で勝るアフガン兵がタリバンに負けるはずがないと国防省の幹部が言ったところ、部族の有力者は次のように言い切ったという。「アフガン兵は国民を守ることを考えていない。カネが欲しいから軍隊に入っているだけだ。米軍が支給する武器や燃料を横流して稼いでいるだけだ」と。

ビール飲み放題のドイツ兵

 アメリカが勢いで戦争を始めてから4年たった05年頃から、アフガニスタンでは自爆テロなどゲリラ攻撃が増え始め戦争は泥沼化していく。アメリカ主導で進めた民主国家建設プロジェクトもうまくいかない。アメリカが主導して樹立したカルザイ大統領をトップとするアフガン政府も汚職にまみれた。

 そもそも、アメリカの米中央情報局(CIA)が特殊工作員を送り込んで金をばらまき、タリバンよりも凶暴なアフガンの無法者たちを味方につけてタリバン掃討作戦を実施した。利権とカネの腐敗の構造ができあがっていた。CIAが味方につけた有力者のひとりは、捕獲したタリバン一派2000人をコンテナに詰め込んで輸送し、そのほとんどを窒息死させた例もあったという。そして、誰も罪に問われなかったという。

 アヘンやヘロインの原料となるケシの栽培が盛んなことにもアメリカ軍は手を焼いた。アメリカがアフガンに侵攻する前、タリバンはアヘンはイスラムの教えに反するとしてケシの栽培を00年に禁止し、01年にかけて麻薬の生産が激減した。しかし、アメリカ軍がタリバンを追い出した途端、農民たちはケシの栽培を猛然と再開したのだ。

 農民からの反発を恐れたアメリカ軍はケシの栽培をやめさせられなかった。アメリカ軍が守っている国が皮肉にも、麻薬の一大生産地になってしまった。一計を案じ、ケシを処分する農家に1エーカーあたり700ドルの報奨金を払うことにした。ところが、農民たちは一段とケシの植え付けを増やし、新たに増やしたケシを処分する見返りに報奨金を手に入れる例が相次いだという。

 北大西洋条約(NATO)加盟国が送り込んだ軍隊の士気の低さも見逃せない。

Germany would not allow its soldiers to join combat missions, patrol at night, or leave mostly peaceful northern Afghanistan. Yet it permitted them to enjoy copious amounts of alcohol. In 2007, the German government shipped 260,000 gallons of home-brewed beer and 18,000 gallons of wine to the war zone for its 3,500 troops. In contrast, U.S. troops did most of the fighting and hardly any of the drinking.
「ドイツは自国の軍隊が戦闘任務につくことを許さなかったし、夜間のパトロールや、ほぼ平和なアフガン北部地域から離れることもさせなかった。おまけに、ドイツ兵たちは酒を飲み放題だった。2007年にドイツ政府は約100万リットルの国産ビールと、約7万リットルのワインを戦地にいる3500人の兵員に送り届けた。対照的に、アメリカの部隊は戦闘のほとんどをにない、アルコールもほとんど飲まなかった」

 イスラム教が飲酒を禁じているのに配慮し、アフガニスタンのアメリカ軍ではアルコールを厳しく制限していた。一方で、戦闘に加わらないドイツ軍では大量の酒を飲んでいた。上記の記述をもとに電卓をたたくと、ドイツ兵は年間で1人あたり平均300リットル近いビールをアフガニスタンで飲んでいたことになる。ヨーロッパの政府高官からはアメリカ軍がアフガンから撤退することに対し、無責任と批判する声が出た。お笑い草である。


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