ベストセラーで読むアメリカ

2021年9月13日

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■今回の一冊■
Facing the Mountain
筆者Daniel James Brown、出版社Viking

 アメリカは第二次世界大戦下に、本国で日系人に対する非人道的な人種差別政策をとった。その歴史の暗部に光をあてるノンフィクションだ。両親や家族がアメリカ各地の強制収容所に囚われの身となっているのに、日系二世からなる第442連隊戦闘部隊は苛酷なヨーロッパ戦線で戦い多くの若者がアメリカのために命を落とした。日本人なら涙なしでは読めない。日本にゆかりがあるわけではないアメリカ人の作家が書いてベストセラーになったのも意義深い。

 ニューヨーク・タイムズ紙の週間ベストセラーの6月6日付ランキング(単行本ノンフィクション部門)で12位につけた。残念ながらランキング圏内に入ったのは1週のみだった。

 アメリカでは第二次世界大戦を扱うノンフィクションがよく売れる。そのほとんどはアメリカ兵の活躍を描き、その英雄譚を盛り上げるために日本軍の残虐な悪行を取り上げるのがもっぱらだ。本書はそうした潮流に逆らい、アメリカ人にとっては耳の痛い史実をとりあげる。1週だけとはいえベストセラーリスト入りしたのは快挙だろう。

認められたい日系二世の気持ちを利用

 アメリカは第二次世界大戦下に、日本人だという理由だけで多くの日系アメリカ人たちを強制収容所に隔離した。真珠湾攻撃で日本軍から不意打ちを食らったのがきっかけだった。しかし、同じ敵国だったドイツやイタリアからの移民たちを強制収容所に入れることはなかった。ナチス・ドイツがユダヤ人を狙ったのと同じように、アメリカ本土で日本人が強制収容所に入れられ財産を失ったのである。

 しかも、強制収容所は劣悪な環境だった。一時的に馬小屋に住まわされたり、十分な食事が支給されなかったり、トイレなどが整備されていない例もあった。あきらかな日本人差別であり、今もアメリカで続くアジア人差別の源流がみえる。白人至上主義の表れだったともいえる。

 第二次世界大戦のときアメリカには約40万人のドイツ人の戦争捕虜がいたという。囚われの身となったドイツ兵の待遇のほうが、強制収容所での日系人に対する扱いより数段よかったという。

 本書の序文のなかの次の一節が本書の意義を端的に語る。

 This part of American history was barely taught in schools, and too many people had never even heard about the incarceration of 120,000 Japanese Americans. Those who lived through the experience were dying. We needed to hear and record their stories.

 「アメリカの歴史のこの部分は学校ではほとんど教えられていないし、12万人もの日系アメリカ人が強制収容所に監禁されたことを多くの人は聞いたこともない。この苦難を生き抜いた人たちは亡くなりつつある。われわれは体験談を聞き記録していかなければならない」

 この序文は、シアトルにあるDensho(伝承)という非営利団体の幹部が本書に寄せたものだ。この団体は日系アメリカ人の歴史を記録保存する活動に取り組んでいるという。本書はこの団体の資料も活用している。

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