2024年11月22日(金)

ベストセラーで読むアメリカ

2021年9月13日

 アメリカは日本人を強制収容所にいれる一方で、アメリカ国民として認められたいという日系二世の若者たちの気持ちを利用し、日系人だけの部隊を苛酷なヨーロッパ戦線に送り込み多くの犠牲を強いた。第100歩兵大隊や第442連隊戦闘部隊がイタリアやフランス、ドイツで展開した血みどろの戦いは涙なしでは読めない。

 特に、ヨーロッパ戦線でドイツまで展開した日系兵たちが、強制収容所からユダヤ人たちを解放するシーンには心が震えた。母国アメリカでは強制収容所で両親たちがつらい生活を強いられているのに、その子供たちである日系兵が、ユダヤ人たちを救ったのだ。恥ずかしながら、本コラムの筆者もこうした史実を知らなかった。ホロコーストの生き残りで日系兵に救出されたソリー・ガノールという人物は、戦後かなりたってから日系兵と再会も果たしている。

 Since then Solly has lectured widely on his experiences during the Holocaust and written a book―Light One Candle―recounting his personal life story. On April 28, 1994, he returned to Waakirchen, where he was reunited with Clarence Matsumura and John Tsukano, two of the Nisei troops who had rescued him in 1945.

 「それ以来、ソリーはホロコーストでの体験を広く講演して回り『Light One Candle』(邦訳書『日本人に救われたユダヤ人の手記』)という自伝も執筆した。1994年4月28日、ソリーはドイツのヴァアーキルヒェンを再訪しクラレンス・マツムラとジョン・ツカノと再会した。2人は1945年にソリーを救出した日系二世兵だった」

真珠湾攻撃後に日系人を排斥

 本書では真珠湾攻撃を受けた後のアメリカ社会が集団ヒステリーに陥り、日系人たちの排斥に傾斜していった様子を伝える。怪しいという理由で日系人の多くが逮捕もされた。FBIも日系人の要注意人物のリストをつくり日本人を相次ぎ逮捕した。報道機関や政治家たちも日本人を標的にした、今でいうヘイトスピーチを繰り返した。真珠湾攻撃の翌年である1942年の3月に全米で実施した世論調査では、回答者の93%がアメリカ西海岸から日系一世を追い出すことに賛成だったという。

 Representative John Rankin of Mississippi declared, “This is a race war. . . . I say it is of vital importance that we get rid of every Japanese. . . . Damn them! Let’s get rid of them now!” Another member of Congress, Oklahoma's Jed Johnson, demanded the forced sterilization of all Japanese living in the United States. Chase Clark, governor of Idaho, said, “The Japs live like rats, breed like rats, act like rats.”

 「ミシシッピイの下院議員ジョン・ランキンは声高に主張した。『これは人種戦争だ・・・日本人を一人残らず締め出すのが重要だと言わせてもらう・・・とんでもない奴らだ!とっとと追い出せ』同じく議員のオクラホマ州のジェッド・ジョンソンはアメリカに住むすべての日本人を対象に強制的に殺菌処理をほどこすべきだと要求した。アイダホ州知事のチェース・クラークは『日本人はネズミのように暮らし、ネズミのように繁殖し、ネズミのように行動する』と言った」

 アメリカに移住してきた日本人の多くは当初、ハワイやアメリカ本土西海岸に住み、劣悪な労働環境のなか農園などで下働きをしていた。アメリカは貧しい日本からやってきた若者たちをこき使い搾取してきた。そして、真珠湾攻撃というショッキングな出来事が起きると、アメリカ社会は一気に日本人排斥へと傾いていく。

 これは黒人差別でもみられる現象だ。自分たちが頂点にいると思っている白人たちは、いざ自分たちの地位に危機感を持つと、社会的に弱い立場の人間を攻撃し、自分たちの優位性を保とうとする。

 白人を中心とするアメリカ社会が人種差別に傾きやすい病理については、2020年11月2日公開の本コラム「米国で400年続くカースト制度」も参照してほしい。


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