アフガン戦争がおかした罪とは
09年にブッシュ政権からオバマ政権に交代してからも迷走は続く。オバマはアフガンへの派兵を一気に3倍に増やし、タリバンを徹底的にたたく戦略に舵を切る。
民主国家樹立のための動きも加速し、大量の金を投じて社会インフラの建設も急いだ。しかし、アフガンの中央政府には汚職がはびこり、アフガン軍も思うように育たない。タリバン掃討に力をいれるものの、勘違いや間違った情報で、無関係の民間人を拉致したり殺したりし、アフガン人の心はますますタリバンへとなびく。
社会インフラの建設では、子どもが実際には通えない危険地帯に学校を建設したり、架空の病院建設プロジェクトが無数に進行し資金が闇に消えていった。何百万円もかかる温室をいくつも建設したのに、アフガンの農民たちはメンテナンスができないため無用の長物になった。短期で多くのプロジェクトをこなそうとしたために、アメリカ政府のだれも正確に個々の案件をフォローできなかったという。
アフガン南部の都市カンダハルでは、灌漑用水路を清掃する作業に月100ドルの給料で地元民を雇い始めたら、地元の学校で働く教師がいなくなった。安月給だった学校の先生たちがみんな、用水路の作業員に転職したからだ。まさに、アフガン戦争とは何のため、誰のための戦争だったのかが問われるエピソードだ。
本書では、子どもを含む民間人をアメリカ軍が間違って殺してきたケースについて、当事者の証言をいくつか紹介している。アメリカ軍は「テロリストだった」と主張し間違いを認めず、アフガンの人々を一段と憤慨させた。
アメリカ軍は撤退の最終局面で、ドローンを使ったロケット攻撃により誤って民間人10人を殺した。当初はテロリストだったと言い張っていた。その後、ニューヨーク・タイムズ紙などの調査報道が間違いを指摘し、誤爆だったことをアメリカ政府は認めた。
これは氷山の一角にすぎないのだ。アメリカ軍のある将校は、特殊部隊が間違った情報に基づいて、アフガン軍の大佐の自宅を襲撃し、大佐と、その妻を殺害した事案について証言している。アメリカ軍は味方も殺していた。
アフガン戦争の無軌道ぶりを物語る例をあげるときりがない。本書はアメリカの失態の数々に関する生の証言に満ちている。アメリカがアフガンから撤退せざるを得なかった事情がよく分かった。その混乱ぶりを受け、アフガニスタンからの撤退の不手際に注目が集まっている。その結果、逆にこの戦争の本質から世界の人々の目がそらされた。本書はアメリカがアフガン戦争でおかした罪に光をあてる良書である。