2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年11月1日

 10月10日、イラク国民議会(定数329)の選挙が行われた。その暫定結果はおおよそ次の通りである。反米指導者と形容されることの多いサドル師のグループは議席を前回の54から73(一部報道では72)へと大幅に伸ばし、引き続き最大会派の地位を確保、今回選挙の最大の勝利者となった。次いで、マリキ元首相の率いる「法治国家連合」が25から35議席へと躍進した。

 これに対して、最大の敗北者は、イランの支援を受ける民兵組織PMUをバックとする「ファタハ連合」で、前回の48から17(プラス2~3)へと大幅な議席減となった。アバディ元首相(2代前)とイスラム政党Hikmahの連合会派も61(前回は別々の会派の合計)から5と議席数を激減させた。

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 以上はシーア派内の結果であるが、スンニー派、クルド系政党・会派では大きな変動は無かった。なお、敗北したファタハ連合は、不正な選挙であったとして、結果を認めないとの立場を表明しているが、最終結果は大きく変わることはないと予想される。

 サドル派が国民議会選挙において2回続けて勝利し、今回は2位の政党を大きく引き離した最大会派となったことは、当初はマイナーな存在とみられていた同派がシーア派内に確固たる勢力を築きつつあることを示している。サドル派は、腐敗した既成権力の一部に成り下がっているとの批判はあるが、今のところ、他の既成政党よりは“マシ”だとの消極的支持・選択として政府批判層の一定の支持を集めている。

 また、貧困層の間に固い支持基盤が存在すること、シーア派の中ではイランに対して距離を置いた姿勢をとることによってナショナリスティックな傾向に乗っていることなどが成功の理由だと考えられる。今回の更なる躍進によって、シーア派内での発言権を増していくだろう。ただし、最大会派と言っても過半数には程遠いので、他の様々な勢力との妥協を図りながら政権樹立、運営に参加していくという基本的な構図は変わらない。

 PMU会派が大きく議席を減らしたのは、近年高まっている反イラン感情、傲慢な武装集団に対する反感・嫌悪感が引き続き強いことを示している。また、PMU系はその存在感の大きさから、腐敗、宗派的政治の象徴とされていることで国民の忌避感も強い。しかし、この集団は実力組織を有し、バックにイランが控えていることから、議会における議席数のみでその政治力を評価することは出来ない。


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