2024年4月21日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年11月1日

 イランとしても、イラクにおける影響力を維持するためにPMUへの支援を続けざるを得ない。議会内の勢力は大きく縮小しても、今後のイラク政治における役割が極端に小さくなることはない。ただし、PMUの行動・人員の縮小や予算の削減への圧力が強まる可能性はある。イランとしては、基本的にシーア派政権が続く限りは、イラク政権のある程度のブレは許容するものであり、その許容範囲はイランとサウジ、イランと米国との関係によって決まってくるのであろう。

カディミ現首相は続投は不透明

 今後は、正式な選挙結果の発表に続いて、首相指名、新政権の樹立を目指して連立への交渉が行われることになる。カディミ現首相は続投への意欲を表明しているが、どうなるのかは現時点では全く不明である。多くの政党・会派の交渉の過程において様々な名前が出て来ることになろう。

 最大会派のサドル派の意向は重要であるが、絶対的ではない。首相指名の拒否権はあっても指名権は持っていない。全て交渉次第である。サドル派に対抗する勢力(例えばPMU系会派とマリキ派)が連合してサドル派の力を抑えるような動きも出てくるだろう。

 より中長期的な視野に立って考えれば、新しい議会、政府がこれまでのような宗派政治による弊害を少しでも改善する方向に進むことが出来るのか、今回の選挙で微かに芽生えた新しい政治の可能性を拡げることが出来るのか、注目に値する。

 対外政策の面では、サドル派の勝利は政府、議会がナショナリスティック、自主的外交を進める傾向を強めさせることになろう。対イラン、対米では強い姿勢を取るのとは対照的にサウジなど湾岸アラブ諸国との接近――既に現政権でも起こっていたが――を更に進める可能性がある。     

   
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