(聞き手/構成・編集部 鈴木 賢太郎)
森 結婚して子供がいる親しい友人に、「この魚おいしいよ」と提案してもなかなか買ってもらえません。なぜかと聞くと、「処理に手間がかかるし手に匂いがつく」「お肉のほうが冷凍できて保存がきく」「魚は外食で十分」と。一般の方が魚に手を伸ばしにくくなっている背景にもこのような理由があると思います。
家庭で魚を食べさせないと子供たちは魚の味を覚えません。最近では大手のスーパーが骨のない魚やキューブ状の魚などを販売するようになりました。「魚を食べる」という点では同じなのですが、これが定着してしまった場合、水産業全体が疲弊していってしまいます。
──街の魚屋さんもかなり減っている印象です。
森 魚屋が減る一方、スーパーの魚売り場は充実しています。当社はもともとスーパーの魚屋からスタートしましたが、今では卸売や飲食店の運営が主体です。ですが、原点を忘れないため、月に一度「魚屋の朝市」というイベントを開催し、店頭で少量単位の魚をお値打ち価格で販売しています。そこで感じるのは、魚の魅力を伝える声掛けがいかに大切かということです。
例えば、「この魚は下処理がしてあるので後は鍋に入れるだけですよ」「この魚は今めちゃめちゃ脂がのっていて食べないと損ですよ」「この価格ではなかなか買えないですよ」とお客さまに声を掛けると、あまり食べたことのないような魚でも絶対に買って帰ってくれるんです。
でも、スーパーの魚売り場には魚やその食べ方の解説をしてくれる店員はほとんど常駐していません。消費者は自分が食べたことのある魚を選び、やがてワンパターン化し、調理方法も限定されてしまう。市場もスーパーには「売れる魚」しか送らなくなり、あまり知られていないけど本当はおいしい魚が家庭に行き渡らなくなります。
だからこそ、YouTubeでは「対面で接客するならこういう声掛けがおすすめだろう」とか「お客さまが知りたいポイントはきっとこれだ」など、視聴者が魚を食べたくなるような発信を意識し、魚食のハードルを少しでも下げるために活動しています。