2024年12月19日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年3月16日

 エネルギー政策については、再生可能エネルギーをさらに拡大し、今年末までに脱原発を、30年までに脱石炭を達成することを目標にしてきた。従来は環境偏重に陥りがちであったが、今後は地政学を重視して、より現実的なアプローチをとらざるを得なくなったということだろう。脱原発について再検討することを求める声も、連立与党の一つ、自由民主党を中心に高まっているようだ。

連立与党とどう折り合いをつけるか

 ショルツが打ち出した政策転換は適切な内容である。どれだけ実現されるのかが今後の注目点となる。連立与党3党それぞれが、ショルツの方針に反対し得るバックグラウンドを持つ。

 緑の党は、環境重視・平和主義の立場であるが、石炭・天然ガスの備蓄や国防費増額を、おそらく消極的に受け入れた。ショルツは今回の方針転換を事前には緑の党に相談しなかったと言われている。ただし、緑の党は、ベアボック外相がかなり早い段階から対露強硬論を唱えるなど、従来のステレオタイプ的な緑の党のイメージとは少し異なるようだ。

 自由民主党は、財政規律重視の立場から国防費の増大に異を唱える可能性があったが、国防費の拡大を受け入れた。そして、ショルツ自身の社会民主党の左派が、今回の方針転換に最も強く反対している。

 ショルツは実直さと老練さを兼ね備えている印象を受けるが、防衛およびエネルギー政策の転換について、反戦・平和主義指向の強いドイツ国民の広範な賛成を得られるかどうか、その政治的手腕が問われることになる。

 3月4日付けワシントン・ポスト紙掲載の論説‘Germany has made a stunning turnaround on Russia. It will take courage to make it last.’は、「ショルツが発表した新たな路線は正しい。ドイツはルビコン川を渡った。今は振り返る時ではない」と評するが、まさにそのような状況であろう。

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