残念ながら、日本はどうかといえば、EAPの利用は限定的ですし、カウンセリングを受ける人は少ない。そういう文化や風土になっていないのです。もし経営手法を欧米流で貫こうとするならば、メンタルヘルスを含めた社員の就労環境も、経営者自らが率先して、米国流の就労環境を構築していかなければいけないと思います。
―― オリンパスソフト社長時代の実績は、出版もされていますし新聞・雑誌にも多く取り上げられました。簡単にどのような対策をしたのか教えてください。
天野:コンピューターと終日向き合うITの職場は、納期厳守と高い技術力が求められ、メンタル不調者の発生率が高い業種です。社長就任当時、約400人の会社で休職者と退職者を合わせると約1割近くという状況でしたが、数パーセントにまで減少させることができました。メンタルケア相談室を設置し、社員が不調になりそうな兆候をウオッチし、適切な措置を早めに講じる予防の強化や賃金体系の見直し、明るいオフィスへの移転、仕事との適性を見つめ直すことなども実施しました。
適性に合っていないと自身と周囲が判断すれば職種の変更を勧め、グループ内であれば出向や異動のサポートをしました。大切なことは、社員それぞれのストレスとなる事柄を取り除いていくことです。
私自身も最初は何から手を付ければいいのか悩みました。スタート時から自信があったわけではありません。1年経ったころから効果が見え始め、6年目には入社希望者が増大して社内アンケートで入社してよかったという声が多く寄せられました。
すべての企業で同じことができるとは思えません。企業文化、業種の違い企業体力など多様だからです。ただ、社内で推進者を置いて前向きに取り組むことは必要です。手が回らない場合はEAP事業者などの力を借りることも有効な手段だと思います。
職場は助け合う場とする発想を
―― 実務を知らず試行錯誤でいる担当者も多いと思います。
天野:メンタルヘルス推進者になるためには、一定のスキルが必要ですので、私たちは育成のためのトレーニングプログラムを準備しています。それは、医学的な基礎知識と企業である以上は労働法に関する知識が必要です。さらに傾聴するテクニックと不調者対応のノウハウなどです。前者は昨年設立した社団法人産業保健法務研究研修センターが専門家による講座を開設して対応します。後者の実践的な対応は私どもがサポートできる体制を整えていきます。