2024年12月19日(木)

野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2022年3月17日

 ウクライナのクリミア半島には、「ニタカ」という有名な空母用飛行訓練施設があり、14年のロシアによる併合を前に中国は多くのパイロットを派遣して、戦闘機の空母着艦訓練を受けたとされている。

 このほか、戦闘機、戦車、装甲車などで協力関係はあらゆる領域におよび、ミサイルでもウクライナの協力は大きかった。中国はスホーイ系統の戦闘機をロシアから購入したが、空対空ミサイルは模倣を恐れたロシアが技術供与に消極的だった。

 これに対して、中国はウクライナを通じてスホーイ搭載のR27中距離空対空ミサイルなどを入手し、自主生産できるようになっている。

 アントノフ型輸送機、大型補給艦、ステルス戦闘機、艦載戦闘機、防空ミサイル、99A式戦車などの生産も、ウクライナの支援があってこぎつけたと言われている。

 「中国はこの20年、ウクライナの軍事技術で欲しいものはすべてもらった」。そんな風に語る中国の軍事関係者もいる。

 ロシアはウクライナと中国のあまりの親密さを警戒し、ウクライナに中国への技術流出を抑えるよう圧力をかけていたという。だが、ウクライナとしても中国は貴重な外貨の収入源となり、人材も有効活用できる居心地のいいパートナーであった。

習近平時代に「一帯一路」の結節点に

 中国がウクライナから軍事技術を得たのは1990年代から2010年ごろまでだ。以後は中国の技術が進歩し、ウクライナから学ぶものは少なくなった。だが、それ以後も友好関係は続いている。次のターゲットは交通と食糧だった。

 12年に政権についた習近平が打ち出した「一帯一路」で、ウクライナを重要なパートナーとして位置付けたのだ。13年には友好条約を締結した。

 ウクライナでは、親欧州連合(EU)と親ロシアの指導者による政権交代が相次ぎ、14年のマイダン革命やロシアのクリミア併合など、政治的に不安定になったが、中国は「我関せず」でウクライナとの関係を固め続けた。

 その象徴は、中欧列班(トランス=ユーラシア・ロジスティックス)と呼ばれる中国・欧州を結ぶ貨物列車だ。20年7月には中国・湖北省武漢市からウクライナの首都キエフが結ばれ、「シルクロード経済ベルト」のための重要拠点となっていた。地理的にウクライナはアジアと欧州を結ぶ位置にある。鉄道網もソ連時代の遺産でしっかり整備されている。

 「世界の食糧庫」と呼ばれる農業大国であるウクライナからは、飼料用のトウモロコシや小麦・大麦などを中国は買い付けており、中欧列班の中国への復路便に満載されていた。中国税関の資料によれば、ウクライナから輸入したトウモロコシは820万トンで、中国の全トウモロコシ輸入の3割を占める。飼料は食糧生産に不可欠だ。中国14億人の胃袋を満たすうえで、ウクライナは大切な飼料の供給源だった。

 国交樹立30周年にあたる現在、強化されているのは経済関係で、ウクライナにとって中国は19年からロシアを抜き去り、輸出入とも最大の貿易相手国となった。中国企業はウクライナの港湾、キエフの地下鉄、風力発電などに協力している。ファーウェイ(華為技術)もウクライナで4Gのネットワーク施設に参加している。

 また、在ウクライナの中国人留学生数も常時5000人ほどいると言われ、欧州のなかで「最貧国」と言われるだけあって物価は安いが、国民全体の知的水準や科学技術のレベルも高いウクライナは、中国人にとって人気の留学先だった。


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