シンガポールの元外務次官のビラハリ・カウシカンが、米国・東南アジア諸国連合(ASEAN)サミットを前に、バイデン政権のASEAN政策について助言する論説を、5月11日付のフォーリン・アフェアーズ 誌に掲載した。
論説では、まず、米国外交にとってのASEANの位置付けが不明確で、その優先度が低いとの認識が示され、他方で、ウクライナ戦争の教訓としてASEAN側は、中国の攻撃的な海洋進出や経済的影響力の拡大による一方的な支配関係にならないよう米国に勢力均衡的な役割を期待していることが指摘された。そしてASEANの有識者を対象としたアンケート調査でも、地域の平和や安定への貢献については、中国よりも米国に対する期待や信頼度が高いとの事実を紹介し、米国にとり関係強化のチャンスであると述べる。
経済面では、中国が最も影響力を持つと認識されているが、加盟国にとり米国との経済関係は引き続き重要であり、米国側に貿易・投資関係の多国間取り組みの努力の必要性を指摘する。特に、バイデン政権の提唱する「アジア・太平洋経済枠組み」は環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)に代替するものではないので、対中国戦略の観点からCPTPPへの米国の参加を呼び掛けている。
更に、具体的には、第1に米国は、中国の海洋進出に対抗するだけでなく、中国のメコン川上流のダム建設や鉄道建設等の陸上での影響力拡大にも対抗する必要があること、第2に、米国流の民主主義を押し付けることは米国への支持の制約となることを警告している。
以上の論説は、極めて的確な助言と思う。ASEANにおいて、政治的にも経済的にも米国への期待が高まっているのであれば、米国にとって、対ASEAN外交を強化する大きなチャンスであるといえる。また、これは日本にとっても「クワッド」(日米豪印)にASEANを取り込む余地があることを示すものであろう。