2024年7月17日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年6月17日

 豪州戦略政策研究所(ASPI)のジャスティン・バッシ所長とブレイク・ジョンソン分析官が、5月26日付のThe Strategistに論説を投稿し、中国は5月30日の島嶼国との会議で新たな太平洋協力構想(警察、通信等)の採択を目指していることが判明したが、それは島嶼国の独立と主権を脅かすものだと、同構想を批判している。

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 中国は4月中旬、ソロモン諸島との間で安全保障協力協定を極めて不透明な形で締結し、強引に既成事実を築き上げた。しかしそれも束の間、中国は新たな攻勢に出て来た。王毅(外相)は、5月26日から6月4日までの10日間、キリバスやサモア、フィジー、パプア・ニュ―ギニア(PNG)など太平洋島嶼国を訪問した。

 5月30日にはフィジーで中国と外交関係を持つ10カ国の外相らと「サミット」会議を開催した。中国は、その場で中国作成の安全保障、警察、通信協力等広範な協力を謳う「中国・太平洋島嶼国共同開発ビジョン」と題する文書(5カ年アクション・プランを含む)に合意するよう、参加国に強く求めていたと言われる。これは 、太平洋島嶼フォーラム(PIF)の分断にもなる。

 この会議に参加招請された国は、PIF18カ国の内、台湾を承認するツバル等4カ国と豪州等4カ国を除く10カ国(PNG、ソロモン、フィジー、バヌアツ、サモア、トンガ、クック、ニウエ、キリバス、ミクロネシア)である。

 5月30日、中国・島嶼国会合がフィジーで開催された。島嶼国は中国提案に署名することに合意せず、同提案は「棚上げ」にされた。他方、中国は、ポジション・ペーパーを作成中で後程発表する予定だと述べ、北京では中国が同提案を自ら取り下げたような話も流れている趣で、実際何が起き、今後どうなるかは更なる情報を待つ必要がある。中国は一部の島嶼国との合意に向けて再び動く可能性もあるように思える。

 この記事は、「中国の地域合意案と王毅の島嶼国訪問は、中国による地域覇権構築と経済・安全保障上の影響力強化を狙ったものだ」として、合意案は島嶼国の警察、通信などを実質的に支配するものになると強い懸念を示している。指摘の通りだろう。

 中国の攻勢により、西側が防御に追いやられることになってはならない。確固とした戦略に立って出来事の主導権を維持していくべきだ。豪州新政権は対中関係を含め安全保障は前政権の政策を堅持するとしており、ウォン外相を直ちにフィジーに派遣するなど初動は安心できる。しかしレトリック倒れになってはならない。


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