2022年6月26日(日)

BBC News

2022年6月24日

»著者プロフィール

メガン・テータム

リモートワーク支持者の声は大きい。しかし、オフィスに戻りたくて仕方のない人たちもたくさんいる。

リンジー・コンプトンさんが2019年にコンサルティングビジネスを立ち上げた時、在宅勤務は最良の選択肢に思えた。過去7年間に8回引っ越した軍人の妻で、幼い子供2人の母親でもあるコンプトンさんには、柔軟な働き方が必要だった。

イギリス在住のコンプトンさんは、「本当に専門的な知識を提供しながら、間接費を高くしすぎないという点でも、とても良いビジネスモデルだと思いました」と語る。しかしそれから3年たち、サウジアラビアから英チェスターまで在宅勤務のスタッフ11人を抱えるようになった今、コンプトンさんはオフィスに戻りたくて「必死」だと認めた。

「ウェブカメラからちょうど見えない位置に洗濯物を干しているような、とても殺風景な空き部屋で仕事をしている10代の気分です」

コンプトンさんは、オフィスには同僚が互いのエネルギーを吸収し合うことができるなど、さまざまな利点があると信じている。

「良い照明と良い環境の整ったオフィススペースがあれば、ちょっとしたインスピレーションを得ることができますし、もう少し勇敢になることができると思うんです」

確かに今は、多くの人がリモートワークの職業に就こうとしている。しかしオフィスに戻りたくて仕方ない人もたくさんいる。

2022年に大手会計事務所PwCが行った調査によると、アメリカの労働者の11%がフルタイムのオフィス勤務を希望した。少なくともいくらかの時間はオフィスで過ごしたいという人も、62%に上った。人材会社グッドハイヤーの調査では、管理職の半数以上(51%)が「従業員がフルタイムのオフィス勤務を望んでいると信じている」と答えた。

<関連記事>


オフィス勤務を希望する人の理由はさまざまだ。オフィスでの他人とのふれあいが恋しいという人もいれば、仕事と家との間に明確な区切りが欲しいという人もいる。

いずれにせよ企業は、新型コロナウイルスのパンデミック後の働き方を決めていく中で、オフィスにいたい人とそうでない人のニーズをどう受け止めるか、考える必要がある。

「みんなとのおしゃべりが恋しい」

多くの人がリモートワークの柔軟性を好む一方、オフィス環境と、それがもたらす社会との接点が失われることが大きな打撃になってしまう人もいる。

食品加工会社スパイス・チキンのビジネスマネジャーを務めるアビ・スミスさん(30)は、「私は在宅勤務やリモートワークの役職には絶対応募しないでしょう」と語る。スミスさんは「幸運なことに」、前の役職で一時帰休となったわずか6週間だけ在宅勤務を行った以降は、リヴァプールのオフィスでフルタイムで働いている。

スミスさんは毎日の通勤にも重きを置いているという。

「数週間の一時帰休の際でさえ(中略)起床して家を出て、1日を通して他の人と交流する、そういうルーティーンがないことは、メンタルヘルス(心の健康)に大きな影響を与えると思います。ずっと長いこと自宅から出ないのは、良いことではないと思います」

アメリカの大手慈善団体でドナー支援者として働くキャロルさんは、同団体が市内のオフィスを閉鎖し、全スタッフをリモートワークに移行すると決めた際、大きなショックを受けたという。

「私は空き部屋のない小さなアパートに住んでいるので、1日中ソファでノートパソコンを使っています。1日中ビデオ通話をすることはできても、オフィスでみんなと一緒にいた時と同じような感覚にはなれません」

「日々の多様な彩りが欠けていて、ともかくほかの人と直接会って、週末をどう過ごしたのか、いま何に取り組んでいるのか、そういう話を聞けないのが残念です」

他人とのつながりや、さまざまに区切られた日々の成り立ちがなくなると、人によっては深刻な影響を与えることがある。米精神科医協会が2021年5月に発表した研究では、少なくとも一定期間、在宅勤務をしている人の3分の2近くが、孤立や孤独を時折感じたことがあると答えた。こうした感覚を常に感じていると答えたのは17%だった。

さらに、家族環境もオフィスが恋しくなる度合いに関連しているようだ。ロックダウン中に家族やパートナーと暮らしていた人の方が、メンタルヘルス上の問題を経験することが少なったという研究も出ている。

「オフィス=仕事モード」

しかし、1日ずっと自宅で過ごすのは危ういと一部の労働者が心配する理由は、健康や社会との接触だけではない。キャリアの将来性も、心配の理由になっている。

イギリスの雇用・人事専門企業ワークネストが行った調査では、オフィス勤務の人と在宅勤務の人が、向こう12カ月で平等に報酬を受けられるはずだと答えた人は、わずか40%だった。PwCの調査では、フルタイムでリモート勤務をしている人たちの3分の2が、家にいることでキャリア発展の機会を逃しているのではないかと懸念していた。

ポーランドの首都ワルシャワに住むミハル・ラズクさん(27)は、オフィスでの勤務と仕事の質に関連があると言う。パンデミック時に働いていた前職では在宅勤務に多くの時間を費やしたが、パスポート・ビザ(査証)サービスを請け負うフォトエイドに転職した際、どこで働くかを選べることになった。ラズクさんはすぐにオフィスを選んだ。

「オフィス勤務は、大学のキャンパスで勉強するのと似ていると思います」とラズクさんは説明する。

「仕事に励む同僚に囲まれていると、脳が自動的に『仕事モード』に切り替わります」

「プリンターのインクの匂い、静かにキーボードを叩く音、給湯室での静かなおしゃべり、こうしたものが本当に助けになります。その場の雰囲気が仕事への気持ちを盛り上げ、生産性を高めてくれます」

ラズクさんはまた、オフィスでの仕事は1日の始まりと終わりを明確にしてくれると話す。在宅勤務の人が仕事とプライベートを分けるのが難しいと言う中で、これは有用な境界線だ。

「私は昔から、会社で『オン』になり、家では『オフ』になるという、その単純なスイッチの切り替えが好きでした。現在のリモートワークの流れでは、犠牲者も出ています」とラズクさんは述べた。

企業はバランスを取れるのか

パンデミックをきっかけに、どこでどのように働きたいか、様々な意見が出るようになった。そのため、企業は新しい就業方針に取り組みながら、大変な思いもしている。

パンデミックによって、一部の業界でリモートワークへの移行が加速したのは間違いない。その一方で、オフィス勤務を好む人たちの声が世の中の議論からかき消されてしまったのだと、カナダ企業ライフワークスのポーラ・アレン副社長(調査・ウェルビーイング担当)は指摘する。

「多くの雇用主がリモートワークを増やし、バーチャルミーティングなどの長期的な変化に対応することに注力しているため、オフィス勤務を好む人たちが疎外されているようだ」

イギリスのキャリアコンサルタント企業シティーCVのヴィクトリア・マクリーン創業者兼CEOは、企業は、全員を満足させるのはほぼ不可能な、厄介な状況に直面していると話す。

「私が話した多くの企業が(オフィス勤務と在宅勤務を組み合わせた)ハイブリッドワークを導入していますが、週に1度は全員がオフィスにいなければならない日を設けています。これによって、柔軟な働き方と全員が定期的に集まることのバランスがとれているようです」

マクリーンCEOは、在宅勤務に縛られてうんざりしているという人に、コンピューターから離れる時間を定期的に取ること、悩んでいるときは上司に相談し、同僚とチャットやビデオ通話などで、人とのつながりを多く持つことを勧めている。さらに、「仕事とプライベートの境界を決めて、『常にオン』の状態にならないようにしましょう」と話した。

ライフワークスのアレン氏は、企業は従業員のニーズに応えるため、コミュニケーションと柔軟性を持った企業文化を作るべきだと話す。従業員にリモートワークを要求する企業ではたとえば、全社的なソーシャルネットワークで社員がつながる機会を増やす、直属の上司が定期的に従業員の様子を確認する、メールではなくビデオ通話を基本の連絡手段にする、などの方法が考えられる。

「従業員がつながりを感じやすくし、孤独感や疲れを軽減するのに役立ちます」とアレン氏は言う。

冒頭のコンサルティングビジネスを起業したコンプトンさんは、何年も引っ越しを繰り返した結果、ソールズベリー近郊ラークヒルにある現在の自宅に、家族と定住したいと考えているという。そのため、地元のコワーキングスペースでの勤務に加え、自宅近くにオフィスを探している。若い家族として、予備の部屋を完全に除外しているわけではない。しかし、自分や従業員が1週間のうち数日でも集まり、クリエイティブに協力できるようなオフィスを作りたいとコンプトンさんは話す。

またビジネスの拡大に伴い、キャリアが浅い従業員の採用にも積極的だ。そうした従業員たちが、オフィスがもたらすあらゆるメリットを享受できる場所を提供したいと考えているという。

「自分がオフィス環境で吸収したことや、オフィス環境に身を置くことで生まれたチャンスなど、さまざまなことを思い浮かべます」

一方で、 リモートワークでは視野が狭くなる可能性があるとコンプトンさんは話す。

「もし、みんなが寝室で仕事をするようになったら、社会は大変なことになります。本当に危険です」

(英語記事 The people who hate working from home

提供元:https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-61875720

関連記事

新着記事

»もっと見る