ところが、これまでのところ、ホワイトハウスと議会で、新たな財政再建策を巡る合意に近づいている気配はない。「増税(歳入増加)反対」の立場を崩さない共和党と、「セーフティ・ネット予算(社会保障費など)削減反対」の立場を堅持する民主党の間で歩み寄りがみられないからなのだが、このまま合意にいたらないまま新年度に突入するとどうなるのか。
もし今年10月1日までに国防歳出法案が可決された場合でも、BCAにとって代わる財政再建法が成立していない状況は変わらないので、引き続き一律10%の予算強制削減が再び発動される。予算案が可決されずに、今年度と同様に継続審議になってしまう場合は、現在の予算のレベルがそのまま継続する。いずれの場合でも、ロックリア太平洋軍司令官が「悪影響を及ぼす」と前述の公聴会で訴えた状態が継続されることになるのだ。
「アジア太平洋地域へのリバランス」への影響は?
万が一そうなった場合、アジア太平洋地域への兵力のリバランス(再配置)にはどのような影響が出るのか。カーター国防副長官は4月8日にワシントンDC市内で行った講演の中で「予算の強制削減措置は今年度だけだ。しかも、強制削減が発動されている現状でも、アジア太平洋地域へのリバランスにとって重要な予算項目はできる限りその影響を最小限に抑える方針になっている。アジア太平洋地域へのリバランスに向けた努力には影響はない」と強調した。
しかし、その一方で、ヘーゲル国防長官は、ますます厳しくなる予算状況を考慮すると、現在の戦略目標がどの程度修正を迫られることになるかに関する見直しを国防省に対して命じた。この戦略上の選択・管理見直し(Strategic Choices and Management Review, SCMR)は5月末までにその結果を出すことになっているが、このような見直しを命じていること自体、予算状況が厳しい状態がこれ以上続けば、アジア太平洋地域へのリバランスも含め、国防戦略そのものを予算状況に適応させる必要が出てくるという現実を国防省がようやく直視し始めた証左だろう。
つまり、米国でも「『この予算の範囲でできることは何か』という観点から戦略が決定されるようになる」(某元国防省高官)時代が到来することになる。
日本でも現在、中長期的な防衛戦略を設定する防衛大綱の見直しが行われている。そもそも、自国の防衛、自国が位置する地域の平和と安定のために、大きな経済力を持つ日本が応分の役割を果たすのは、当然のことだ。特に、同盟国米国がこのような状況にある今、日本が自国の防衛、あるいはアジア太平洋地域の平和と安定のためにどこまで役割を果たす用意があるのか。年末までにまとめられる次の防衛大綱では、これまで、こと自国の安全については米国に「おんぶに抱っこ」の感が強かった日本がそれをどこまで卒業できるのか、その覚悟が問われることになるのかもしれない。
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